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目視による避航判断とレーダによる避航判断の比較:経験による違い編

加藤 由季加藤 由季

このシリーズでは、情報源が操船判断に影響を与えるのかどうかということを見ています。第1回目は、交通状況に着目した研究を紹介しました。今回は著者らが発表した研究2)3を基に、経験の違いに着目した実験結果をご紹介したいと思います。
では、第2回目を見ていきます。

第2回:実航海の経験がある者と(知識はあるが)経験がない者

避航判断 – 経験による違い①

第1回で報告した実航海の未経験者で差があった「複数隻が存在する交通状況」と同じ状況を、実航海で経験を積んだ操船者(平均経験年数は13年)に提示し、目視のみ、または、レーダのみで避航する場合、どのタイミング(変針のタイミング)で、どちらの方向(変針量)に避航するのかを調査しました。

目視のみとレーダのみの判断を比較した結果、実航海経験者は変針のタイミングも変針量も、情報源間で有意な差が認められませんでした(n.s.)。

第1回で紹介した実航海未経験者を対象に行った結果は、直近の衝突を回避した後に、次に接近する船が存在するような交通状況では、変針のタイミングに、情報源間で有意な差が認められ(p<.01)、レーダ情報のみの場合の方が、早いタイミングで変針を開始するものでした。

これらのことから、情報源による避航判断の差が発生する原因は、知識ではなく、実航海での経験有無が関係している可能性が考えられます。

避航判断 – 経験による違い②

さらに詳しく見ていきたいと思います。
下図に実航海未経験者と経験者の結果の平均値および分析の結果を示します。図の横軸は変針のタイミング(分)、縦軸は変針量(度)を示しています。
例えば、実航海未経験者がレーダから避航判断した場合には、変針のタイミングの平均値は1.7分、変針量の平均値は31.9度で、実航海未経験者が目視から避航判断した際の実験結果と比べて有意な差(p<.01)があることを示しています。

目視による避航判断とレーダによる避航判断(経験者と未経験者)

上図から実航海で双方を用いて避航判断する経験を積むと、目視のみ、または、計器のみのどちらかのタイミングに収束するのではなく、「レーダのみの方が変針のタイミングが早くなる」、または「目視のみでは遅くなる」というレーダと目視の判断の特徴がそれぞれ小さくなると推察できます。また、情報源による判断への影響は、変針量よりも変針のタイミングに現れることが見て取れます。

まとめ

以上のことから、直近の衝突を回避した後に、次に接近する船が存在するような交通状況では、十分な知識を習得しても、実航海での経験が無いと情報源の影響が生じる場合があり、実航海で経験を積むとその差が減少すると考えられます。

今回紹介した目視実験に協力いただいた実航海経験者の平均当直経験年数は15.7年(SD=11.0)、レーダ実験は10.3年(SD=7.2)でしたが、どの段階で判断に差が生じなくなるのかは未だ明らかになっていません。

これらのことから、特に混雑した状況下や視界が制限されている状態では、「どの情報源を用いて判断したかによって変針のタイミングが変わる」ということを意識する必要があると科学的に言えると思います。

近い将来、海事分野においても、自動化、自律化が進むことが予測されます。技術の進歩を止めることはできません。著者らはこれらの研究が、遠隔地にある制御室から監視や操船を行うようになると予測される近い将来の海上交通においても役立てたいと考えています。

ご覧いただきありがとうございました。

参考文献

2)加藤由季, 渕真輝, 藤井迪生, 久保野雅敬:目視と計器による情報が避航判断に及ぼす影響について, 日本航海学会論文集, 136, 50-56, 2017
3)Yuki Kato, Masaki Fuchi: Impact of Experience on Collision Avoidance Judgments Due to Differences of the Information Employed- In Anticipation of Remote Navigation -, Journal of Maritime Researches,(7), 12-23, 2017

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