未来の入港前ミーティングはこうなっているかもしれない

著者: 藤井 迪生 ・ カテゴリ: 研究室 ・ 公開: 2026/8/16校閲済

未来の入港前ミーティングはこうなっているかもしれない

この動画は、私が進めているプロジェクトで、入港前ミーティングを生成AIとの対話で行った実験の映像です。2026年3月にSingularity SocietyのBootcampイベントにおいて、発表しました。

デモでは、入港前日のミーティングを想定し、入港に必要な情報や注意すべき内容を、AIとの対話を通して組み立てていきます。

デモで行っている具体的なステップは以下の通りです。

  1. 生成AIが、ミーティングの流れを説明
  2. 人間が、今回の入港の条件を説明(入港地、船舶サイズ、入港予定日時)
  3. 生成AIが、入港する港の潮汐、航行情報、過去の事故事例の検索
  4. 生成AIと人間が、リスクと注意点について意見を出し合う
  5. 生成AIが提示した判断基準を人間が検証し、作業を中止する判断を決定
  6. 生成AIが、ミーティング内容のメモを作成

生成AIは、入港地と入港予定時刻が入力された時点で、潮汐・航行情報・事故事例を自動的に集め、それをもとに、予め指定されたミーティングのシナリオに従って進行しています。

情報は、誰が握っておくべきか

このデモは、私たちに一つの疑問を投げかけます。それは、今の時代でも、情報を常に乗組員(人間)が握っておく必要があるのか、ということです。

現場には日々、様々な情報が届きます。気象・海象、航行警報などの日々の航海に関わることだけでなく、ターミナルのルールの変更や、他船での事故やニアミス・ヒヤリハット事例など、当分寄港しない港や、ほとんど行わない作業についても、それらの情報を頭の片隅に置いておくことが求められます。乗組員は情報が届いたら、それを整理し、必要な時にすぐに利用できる状態にしますが、日々の実務の傍らでこれを続けるのは負担で、また、すぐに使わない情報を覚え続けることには限界があります。少なくとも私は現場でそう感じていました。

他方、船舶管理の視点から見れば、現場に周知すべき情報をCircular(回覧文書)で伝え、注意を促すのは仕事の一つです。回覧文書をいかに乗組員の注目を引く内容にするか、周知したことを覚え続けてもらえるかについて、陸上担当者が知恵を絞るのも、その一環です。

ここで、デモの動画に話題を戻します。デモで入港に必要な情報を出していたのは、生身の人間の記憶や資料ではなく、会話の流れに沿って動く生成AIの側でした。作業前ミーティングの目的は、主に「情報の共有」と、「意思の決定と共有」の2つですが、少なくとも前者の大部分は生成AIに置き換わり得ることを、この実験デモは示しています。

そうなると、必然的に情報の持ち方、伝達の仕方は変化せざるを得なくなると考えられます。情報は人間が覚えておくのではなく、AIが検索して取り出せる形で蓄えておき、判断が必要な場面にだけ提示してもらうようになっていくと私は考えています。現に、これは情報通信業界では既に起こっている流れであり、近い将来、私たち海運業界にもやってくるのかもしれません。そうなった時、情報は誰に、どのような形で伝えると効果的なのかは、とても考えさせられるテーマです。プロジェクトは現在も進行中です。このシステムを実務に取り入れた時に、その問いにどのような答えが見つかるのか、引き続き、進捗はこちらで共有する予定です。