コンテナ船における船幅拡張がもたらす横メタセンタ(傾心)上昇の影響

世界の海を駆け巡る船舶の大型化を制限するのは、狭水道、運河、港湾サイズ等である。
コンテナ船が一般化した時代は、1914年開通のパナマ運河が船体長・船幅・喫水を制限し、船体の基本要目: L・B・D・dを最大化した船型がパナマックス:PXとされた。PXは、全長L: 294.1m、船幅B: 32.3m、喫水d: 12mを最大寸法とし、L/B比: 290/32 ≒ 9の細長船型で高速性に優れたが船体縦強度・復原性に課題があった。

縦強度:
縦曲げモーメントに十分配慮したコンテナ積載方法が必須であった。


復原性:
甲板上コンテナの4段以上の積み上げは、重心: Gの上昇で復原力が不足する懸念があった。

特に、大洋航海を開始する直前の寄港地では、積載を担当するプランナーが堪航性維持の要件として、上記2点を入念に確認し、時には、GM過少のため積載のやり直しも発生した。

PXの細長い船型での甲板上コンテナ多段積みは、船体の復原性に大きく影響し、常時、所定のGM値充足を必須条件として積載を工夫していた。(大洋航海中の燃料消費等による重心の上昇分も見込んだ堪航性の担保が必要となった。)

2016年開通の新パナマ運河では、L: 366m、B: 49m、d: 15.2mのOPX船型でも通航可能となり、L/B比: 366m/49m ≒ 7 の幅広船型は、船底バラスト水無しでも船体縦強度・復原性を確保でき、甲板上コンテナ5段超えも可能となり、積載自由度が増した。

こうして、PX船型から解放されてコンテナ積付数が飛躍的に向上すると、運航採算の限界を求めたメガコンテナ(MC)船型へ進展し、L: 400m、B: 60mの2万TEUが出現した。一方で、最近、このコンテナ船では、大洋航行中の甲板積コンテナ流失事故が連発した。著者は、その原因は復原力の基本式から、過剰な復原力が働き、大きな横揺れを起こしたと推測している。

神戸経済ニュース@YouTubeより
※動画に掲載されている船は本記事の内容に直接関係ありません。
(コンテナ流出時の状況をイメージする参考としてご覧ください)

復原性に関する次式が示す通り、MC船型のBM値はPX船型の3倍を超え、復原力が強烈になった。

\[ BM=\dfrac{I}{V}=\dfrac{L\times \dfrac{B^{3}}{12}}{Cb\times L\times B\times d}\fallingdotseq \dfrac{B^{2}}{12d} (Cb=1.0) \]

OPX以降、船幅増加比率の二乗倍でメタセンタ(M点)が上昇したので、最大積載数状態でも重心(G点)がM点より極端に低くなりGM過大は明白で、GMを低減する積載方法は本質的に不可能だろう。
OPXは、特に、甲板積みコンテナ重量に制限がありGM増大の傾向にある。更に近々、新造2.5万TEUコンテナ船も出現するらしい。

船舶の横揺往復周期の算式では、

\[ T=\dfrac{0.8\times B}{\sqrt{GM}} \]

PX型の安全なGM値とされる1mとすると、

PX型:

\[ T=0.8\times 32=25.6(sec) \]

OPX型:

\[ T=0.8\times 49=39.2(sec) \]

また、OPX型のTが25.6 (sec)とすると、

\[ T=\dfrac{0.8\times 49}{\sqrt{GM}}=25.6(sec) \] \[ GM=\left( 0.8\times \dfrac{49}{25.6}\right) ^{2}=2.3(m) \]

過大な復原力は危険な横揺加速度を生じる。空船状態では重心が下がってGMが増大し、短周期の激しい横揺れとなり、ラッシングを破壊してコンテナを落水、船内の物品を散乱させる。コンテナ満載状態で発生すれば悲惨である。PX時代の「GMトラブル」と言えば「GM不足」だったが、OPX時代の1.4万TEU型では「GM過剰」となったのは皮肉である。

こうなると、スタビライザーによる横揺周期の緩和が考えられる。静的な復原力での船体横揺の抑制が不十分ならば、この装置で動的に制御すべきであり、客船や航空母艦では活用されており、メガコンテナ船でも妥当と考えられる。

やがて、IMOのMSC等で「メガコンテナ船の復原性」に関する規定も策定されるだろう。これも、人間の飽くなき欲望追求から研究開発が繰り返され、科学的に発展する過程か。兎に角、地球と生物の存続に良い方向であってほしい。

編集部より

復原性基準策定に関する技術的な検討については、以下が参考になります。

第二世代非損傷時復原性基準に関する研究. -概要と過大加速度モードの基準策定に関する研究- (黒田 貴子)

海上技術安全研究所報告 第21巻 別冊 (令和3年度) 第21階研究発表会 講演集

https://www.nmri.go.jp/_src/202100/PNM2A210005-00.pdf

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