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航海士の七つ道具とパイロットの七つ道具

船乗りの『道具』に関する話です。

ある航海士と一緒に乗ったときのことです。その人は仕事のよくできる人で、常に七つ道具を持ち歩いていました。七つ道具とは、①巻尺、②メモ帳、③テストハンマー、④マジック、⑤小型トーチ、⑥デジカメ、⑦トランシーバーです。危険物積載船ではトーチやデジカメの使用に制限があるかも知れませんが、これらの七つ道具が非常に役に立ちます。デッキを見回りするときは、ただ歩くだけでなく、常に不具合がないか、チェックポイントとなる場所を点検し、問題ある場所はマーキングしたり、計測したり、写真に記録したり、必要な処置を行います。見回り中にせっかく見つけた不具合箇所もマーキングしたり、メモ帳に記録しないと後で思い出せないことが多々あります。

ちなみに、パイロット(水先人)の七つ道具は、①軍手、②安全靴、③双眼鏡、④救命胴衣、⑤お守り、⑥トランシーバー、⑦腕時計だそうです。

ところで、2007年4月から新しい水先人制度が始まりました。若い航海士にはあまり興味ないかも知れませんが、私達船長は非常に注目しています。今までは水先人になるためには3年間の船長履歴が必要で、しかも会社の推薦、後押しがなければ水先人になれませんでした。さらに、受け入れ先の水先人会が認めた人物しか水先人になれませんでした。船会社側と水先人会側の両方で高いハードルがあったのです。

しかし、水先人制度の大改革により必要な船長経験は2年間に短縮され、水先人養成学校で8.5か月間学び水先人試験(身体検査、筆記試験及び口述試験)に合格すれば、水先人になることができます。会社の推薦(後押し)は不要となりました。ですから、概ね自分の希望する港湾のパイロットに好きなタイミングでなることができるのです。ややこしい「しがらみ」や「コネ」が不要となった点は多いに評価できます。

私達のように船長経験者がなる水先人は「1級水先人」と呼ばれますが、船長経験がない航海士でも2級水先人になることが可能となりました。その場合、所定の経験を積んで1級水先人になることが可能です。また、船員の経験がない人でも3級水先人になることができます。水先人制度改革を進める一つの理由は水先人になる日本人船長が枯渇しつつあるからです。現在では外航船の船長経験がない1級水先人が誕生することとなりました。過去の閉鎖的、特権的であった水先人制度が、内航船員や若者たちへ道を開いたのです。今後の3級水先人のパーフォーマンスの良否が水先人制度の将来の方向性を決めると言っても過言ではないでしょう。

世界的に見れば、一般的にはBayとHarborの水先業務を兼務しているのが普通です。しかし、日本の港湾の場合は、船舶輻輳度が高く、航行距離も長いため、伝統的に水先業務は「Bay」と「Harbor」に水先区が分かれていました。しかし、これも水先制度の改革により、完全に統合されました。今までは湾入口でベイパイロットが乗船し、港口でハーバーパイロットに交代していたのが、今は湾入口から岸壁(桟橋)まで同じパイロットが乗船して行きます。

注意

記事の内容は執筆当時のものです。最新の情報は日本水先人連合会のページでご入手下さい。


参考
水先人になるには日本水先人連合会

 

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