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オイルショックで、釣り大好きな船員は大喜び!?

商船でも楽しむことができる!?『トローリング』の話です。

皆さんは「オイルショック(石油ショック)」と言われて何のことか説明できますか?「トローリングの話でなぜオイルショックなの?」と思う人もいるでしょうが、実はオイルショックがトローリングと関係あるのです。いわゆるオイルショックと言えば、2つの世界的に重大な出来事を意味します。一つは、1973年に第四次中東戦争(エジプトとイスラエルの戦争)が原因で、エジプトに見方したアラブ産油諸国が原油の減産、値上げを行い世界経済に大打撃を与えたという出来事で、日本語では「第一次石油危機」と言います。もう一つは、1978年に起こったイラン革命により、原油価格が急騰した出来事で、こちらは「第二次石油危機」です。

いずれも国内または諸外国の政治不安によって引き起こされた事件で、原油輸入依存率の高い日本ではガソリン価格が高騰して世間が大混乱に陥りました。最近では2008年にリーマンショックという米国金融業界に端を発した世界規模の経済危機に襲われましたが、当時の石油ショックはそれ以上のインパクトがあったと思います。なにせ、スーパーマーケットのトイレットペーパーや砂糖が売り切れて、在庫がなくなるという現象まで起こったのです。当時の原油タンカーの多くがタービン船で、大量の燃料を消費しながら航行していました。1日200トンものFOを焚く船もありました。そのため、殆どの原油タンカーは燃料費節約のため、最大減速航海を余儀なくされ、10ノット前後の低速でインド洋や南シナ海を航行していました。

この10ノット以下の低速航行が「トローリング」の絶好の機会となるのです。簡単に「トローリング」と言いますが、正確に言うと私達が船尾でラインを流しながら釣る方法は「曳き縄釣り」という漁師が行う漁法で「トローリング」とは異なります。トローリングは専用の釣竿とリールを使用し、魚が掛かると船速を落として魚とファイティングして弱らせてからボートに引き揚げる一種のスポーツです。

「曳き縄釣り」はプロの漁師が数多くの魚を釣るため、船尾からたくさんの仕掛けを流し、魚が掛かると船速を落とさずに次々と引っ張りあげる漁法です。もちろん私達の船は魚が釣れるたびに船速を落としてファイティングしたくてもできませんので、商船での釣りは「トローリング」ではなく、「曳き縄釣り」なのです。

トローリングの道具として必要なものは俗に言う「ヒコーキ」という海面を跳ねる道具、または「潜行板」という水圧を受けて水中に潜り左右に首振り運動をする道具です。そして大きな釣り針付きの疑似餌(ルアー)を取り付けた長さ100~200mの釣り糸を船尾から流します。当時の減速航海するタンカーでは一航海の間に何匹かの大きなマグロやカジキが釣れたものです。そして、夕方になると賄いが調理した新鮮で美味しいお刺身が食卓に並びました。


参考
曳き縄の潜行板仕掛け満福ブログ

10ノット以下の低速でないとトローリングができない理由は、船速が10ノットを超えて12、13ノットとなると折角、魚が仕掛けに食いついても顎だけを残してちぎれてしまい、船上まで揚がってきません。ですから、当時の減速航海の船速10ノットが船尾からのトローリングに最適だったのです。最近は減速航海の機会もほとんどなく、残念ながら船尾からトローリングする機会は滅多にありません。

魚釣り大好きな船員さんにとっては石油ショック大歓迎だったのかもしれません。ちなみにハリス、テグスと言えば釣り糸のことです。英語でかっこ良く言えば、ハリスはリーダー(Leader)、テグスはライン(Line)。日本の釣り糸をなぜテグスと呼ぶかというと、その由来は、昔は天蚕蛾(テグスサンという蛾)の幼虫から取った透明の釣り糸が最も良く用いられていたため、その蛾の名前が一般名として使用されているのです。

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