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エンジン・ア・ラ・カルト(その3)

燃料

ディーゼル船とタービン船での違いは回転数制御だけでなく、使用する燃料についても事情が異なります。ディーゼル船では「清浄機(Purifier)」でFO内に含まれるスラッジ分等不純物を除去し、きれいになったFOを燃焼させています。「清浄機」は遠心分離機のようなもので、高速回転によって発生する遠心力を利用して比重差のあるFOと不純物を分離します。

シリンダー内で不純物の多いFOを燃焼させると、ライナーの偏磨耗等主機の重大損傷の原因となります。一方、タービン船ではFO内の不純物を除去する必要はなく、直接ボイラーで焚いています。いわゆる「生焚き」です。燃やして蒸気を作るだけなので清浄機を通さずにFOの生焚きで問題ありません。

燃費は船速の約3乗に比例することを知っていますか?すなわち船速が2倍になれば、2の3乗、8倍も時間当たりの燃料消費量が増えます。また、航海全体を考えると、速度が2倍になるということは到着までの時間が半分になるので8÷2=4倍となり、航海全体としての燃料消費量は速度の2乗に比例しているといえます。従って航海平均の速力が1割増すと(1.1倍)2で燃料が約2割多く必要となります。

船で使用する燃料はC重油であることを皆さんも知っていると思います。C重油は非常に質の悪い油に少し質の良い油を混ぜて作る、いわゆる「ブレンド油」です。そしてC重油は常温(20℃程度)では粘度が高すぎるため、使用するときは蒸気により100℃以上の温度までHeatingして使用します。

確かにデッキ上にこぼれたFOはGear Compoundのように黒色でべっとりした状態で固まっています。船首部にFOタンクを持つ船では船首部から船尾のセットリングタンクへFOをシフトするときは、前もってFOタンクを40℃程度まで温めて、粘度を下げておかないと移送ポンプでシフトできません。そして、途中のFO配管にも蒸気によるHeating措置が施されています。この蒸気を「Tracing Steam」と言います。

ちなみに船の燃料を英語で「Bunker」と言いますが、このBunkerの本来の意味は「燃料庫」のことです。昔の石炭焚き船の石炭置き場を「Bunker」と呼んでいました。そこから現在の重油焚き船の燃料を「Bunker」と呼ぶようになったのです。

Soot Fire

若い頃、ある船が米国のロングビーチを夜間に出港しました。3/Oとして船橋当直に立っていた私は煙突を見てびっくりです。まるでドラゴン花火のように多量の火の粉が煙突から吹き上がっているではありませんか。機関システムのことを何もしらない私は、これは機関の大変な異常事態であると思い、慌ててECRに連絡し、火の粉を止めるようお願いしました。

当時の3/Eは私の同期生で、「そんなの無理だよ。火の粉を止めるには船を止めるしかないよ。」と言われて、私の頭の中は???です。今では火の粉が煙突から吹き出てくる現象を理解できるようになりました。排エコ水洗い作業によって煙道に「すす(煤)」が溜まります。その煤が排気ガスの高温で火の粉となって煙突から吹き出てくるのです。この現象のことを「Soot Fire」と呼び、それを簡単には止めることはできません。Soot Fireは排ガスエコノマイザーの過熱焼損の原因にもなります。今となっては笑い話ですが、その現象や構造を何も知らない当時の私にとっては、ハラハラドキドキの一大事でした。

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