知っているようで、意外と知らない『代理店』の話をいくつか。
いわゆる世間で知られている代理店には、販売代理店や保険会社の代理店等様々な形態の代理店がありますが、私達船員とかかわり合うのは「船舶代理店」です。本船がある港に寄港する場合、様々な手続きが必要となります。
例えば、官憲への申請手続き、港湾荷役作業の手配、航路航行申請、パイロット・タグ手配等々です。これらを全て本船で行うとすれば、多大な労力と時間が必要であり、さらにその港の特殊な事情について不明な点が多く、何らかの問題発生時には迅速、かつ、円滑な対応ができません。やはり本船のみでは実質的には不可能です。そこで、港湾事情に精通し、地元に顔が利く船舶代理店に諸手続き業務や関係者間の調整を依頼することになるのです。
船舶代理店は役割や立場によって分類することができます。まず、「Charterer’s Agent」と「Owner’s Agent」に分類することができます。Charterer’s Agentとは文字通りCharterer(傭船者)のための代理店、Owner’s AgentとはOwner(船主)のための代理店です。
「これはOwner’s MatterだからOwner’s Agentに手配を依頼しよう。」「これはCharterer’s Matterだから、Charterer’s Agentに手配を依頼しよう。」と船長が言っているのを聞いたことがありませんか?ざっくり言えば、Charterer’s Agentは運航に関わる仕事を担当しています。例えばパイロットやタグの手配、航路航行申請、トン税納付等入港手続き、荷役作業手配等の船の運航に必要な業務をChartererの代理人として行います。一方、Owner’s Agentは船員に関わる仕事を担当しています。例えば、乗組員の乗下船、上陸バスの手配、食料・個人品・船用金の積込み、郵便物の発送等々の業務をOwnerの代理人として行います。
各代理店との契約はChartererやOwnerが「Appointment Letter」を各代理店に送付して契約を締結します。港によってはCharterer’s AgentとOwner’s Agentが同じ1社の代理店となる、いわゆる「Joint Agent」となることもあります。Charterer’s AgentとOwner’s Agentが一本化されるのです。理由は、自社船を自社が運航している船では必然的に両方の業務を1社に委託することになります。また、料金が割安となることやその港に代理店が1社しかない場合もJoint Agentとなります。運航関係者の様々な状況・立場を勘案してJointとするか、別々の代理店を立てるかどうかが決まります。もちろん自分の会社の系列会社の代理店がその港にある場合にはJointになろうがなるまいが、その系列会社の代理店を利用するのが一般的です。
「Sole Agent (Hub Agent)」と「Local Agent」という言葉で代理店を区別することもあります。Sole Agent(Hub Agent)とは「総代理店」のことです。「Hub」は皆さんもよく知っているように自転車のタイヤのスポークが集まる中心部分のことです。その形状から世界への窓口となる国際空港のことをHub空港と呼びますが、同じように中心となる代理店のことをHub Agentと呼び、そのUnderとして各港の「Local Agent」が実際の港での手続きや代理店業務を行うことになります。この場合、ChartererやOwnerの指示が総代理店(Sole Agent)に伝えられ、総代理店がLocal Agentをコントロールすることになります。
以上のように一言に代理店といっても様々な形態・立場で代理店が本船に訪れることになります。皆さんも本船にやってくる代理店の立場を一度整理してみてはいかがでしょうか?きっと新たな発見があるはずです。