漂流する超大型タンカーの救出記録 12月13日(金)16:50〜NHKニュースシブ5時で放送

大洋航海術の発展

安達 直安達 直

櫓櫂舟から巨大船までを操ることに恵まれた海技者として、また、その海技力を礎にした船舶管理者として、海運が急成長した時代を生きて心に残った経験や持論を纏めておきたい。

大洋航海

天文航法が確立されると大洋を渡る航海が繰り返されるようになり冒険の域を脱し、最適な常用航路が開設されるに至った。更に第二次世界大戦の頃からは、電波技術の発達により船位測定方法に全天候型の電波測位が加わった。「2定点からの距離差が一定である点の軌跡は、その2点を焦点とする双曲線である」との定理を応用している。船上で2局からの電波位相差を測り、専用図上で該当する位相差の双曲線を「位置の線」とする。こうして2組以上のペア局からの双曲線が形成する「誤差の多角形」内に船位を決定した。

「ロラン」は、米軍が大戦当時、悪天候でも日本の標的を爆撃する為に開発された。グアムから中国にかけて電波発信局を設けて日本列島を双曲線で覆い、視界に依らない電波航法を完成し戦果をあげた。欧州戦線では同類の「デッカ」が実用化された。大戦後、これら双曲線理論に基づく位置決定手法は8局で地球全体を覆う「オメガ」で完結した。

その後、宇宙開発に伴い人工衛星から発射する電波を地球表面、或いは空中にて受信して即座に位置決定できる「GPS」システムが開発された。軍事作戦上、常時、地球全域で正確に位置を把握する為に約30個の人工衛星が使われている。そのお陰で、洋上での定点作業にも不可欠な超高精度の位置情報が得られる。つい四半世紀前まで、天測による船位確認は大洋を渡る必須要件であり、航海士たる者は悪天候であっても当直作業の合間に好機を逃さず天測を完遂できる技量を身上とした。「目先が利いて几帳面、負けじ魂、これぞ船乗り」と聞かされたが、その昔は、運航全般に於いて個人の技量に頼る所が大きくその心意気も高かった。科学の発展と人間の技量や精神力との調和の難しさを考えさせられる。

レーダのスキャナー部

人間の五感能力を凌ぐ機械化や電子化されたシステムの開発は、人間のあらゆる物理的活動を大きく変革してしまう。電子の目であるレーダーの発達は航海に於けるその典型である。暗夜、悪天候であっても電波が直接届く範囲であれば物体の存在を探知する。更に物体の方位と距離を連続測定して自船との相対関係を正確に把握でき、衝突予防等による安全航行に大いに貢献している。昔は霧の中で相手船等が視認不能ならば停止または徐行していたが、レーダーを使用すれば減速せずに安全航行できるようになった。一方レーダーを過信した霧中衝突/座礁事故が増えた。こうした航海システムの発達は航海の訓練課程を容易に完了させ、更なる海技を練磨する必要もなく巨大船を当然のように指揮する時世をもたらした。良く言えば、基本技術が機械化され安全・省力・効率・安定を向上した船舶管理が進み海運業が競合しながら発展している。

近代的な船橋と航海計器類 (2007年当時)

豪州から石炭を満載して極東方面に航海中の船舶が、深夜、日本最南端の絶海の孤島『沖ノ鳥島』に乗り上げた。近代的な航海計器を備えながらの信じ難い話であり、他船と殆ど会合しない大海原で安心し切って見張りを怠った結果である。自動操縦状態で航行し無作為のまま、航路付近に在った「大海の塵」程の小島へ的中した。狙っても当らないようだが衝突する確率は零では無い証拠である。航海当直者は、前以て自船の航路付近に在る目標や障害物を十二分に意識していなければ始まらない。本来、人間の五感を駆使した見張りが安全運航の基本であり、如何なる場合にも信頼できる手法を使いこなす技量が必要だ。しかし船員の海技力は航海/機関システムの科学的進歩によって簡略化或いは代替され以前よりも必要性が減った。逆に、これによって船舶運航の要である船員育成が単純化して容易となり、輸送需要の増加に即応した船隊拡充に役立っているとも言える。

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