あんな船乗り用語、こんな船乗り用語 (その2)

昔の船員がよく使っていた船乗りならではの言葉、「船乗り用語」もどんどん消えて死語になった言葉がたくさんありますが、若手航海士の皆さんには是非「船乗り用語」を一つでも多く覚えて、記憶の片隅に留めて欲しいものです。そして、外航船員のDNAを途絶えさせないよう後輩へ少しでも語り継いで下さい。ここでは私達船乗りが日常で何気なく使っている「船乗り用語」の第2弾としてさらにいくつか紹介します。

あんな船乗り用語、こんな船乗り用語 (その1)

「丸」

最近は外航商船の船名で、めっきりとその数が減ったのが「丸」の付く船です。昔は日本船と言えば必ず「・・・丸」というように船名の最後に「丸」がついていました。その由来は有名なので皆さんも一度は聞いているはずです。平安時代の公家は自分のことを「麿」と呼び、さらに自分の大切なものに「麿」を付けるようになり、「麿」が「丸」に変化して船の名前に付けられたのです。明治時代には法律によって「船舶の名称には、なるべくその末尾に丸の字を付けなければならない」とあり、「丸」を付けるよう指導していました。ちなみに、日本船を外国に裸用船して外国人船員を乗せて日本が再び用船する船のことを「マルシップ」と呼んでいます。

「塩抜き」

料理のときに使う言葉ですが、船では清水洗いのことです。錆打ち・塗装作業など甲板作業にとって雨は妨げになるばかりで歓迎されません。スケジュールに余裕があれば、スコールを避けて航行することもあります。しかし、長期間雨が降らないと甲板上に海水塩分が付着し、発錆が進行してしまいます。そのため塩抜きとして、わざとスコールの中を通過することもあるぐらいです。船員が陸上勤務をして、仕事に慣れてくると、「すっかり潮気(しおっけ)が抜けてしまった。」と言います。数年間の陸上勤務で完全に「潮抜き」されて陸上社員と外見上は何ら変わらない風貌になります。

「もやい」

船の「もやい」ですが、漢字では「舫い」と書きます。「船と船をつなぎ合わせること」あるいは、「つなぎ合わせるための綱のこと」をもやいと言います。別の漢字で「催合い」という言葉もあり、その意味は集団で労働や資材を出し合ってする共同労働のことで、例えば地引網での共同作業を「もやい」と言います。私達に馴染み深い「ボーラインノット」も日本語では「舫い結び」です。

「チェッキ弁」

古手の船員は逆止弁のことを「チェッキ弁」と言います。本当の発音はチェック弁ですが、言い易いようになまってチェッキ弁となったのでしょう。なんとなく「チェック」より「チェッキ」の方が親しみある呼び方です。英語のCheckには「急に止める、阻止する、中止する」という意味があり、まさに流れを阻止する弁のことをチェッキ弁と呼びます。

「だましだまし、こらえる」

係留作業において、まもなく岸壁へ着岸するというときに、若干残っている船速で船が少し前後することがあります。そんなときは、スプリングラインや流し索に少しテンションをかけて船の前後移動するのを留めることを「こらえる」と言います。「だましだまし」という言葉は、「様子を見ながら」という意味です。係留索が切れるところまでブレーキを効かせてこらえるのではなく、無理しない範囲でテンションをかけ、強すぎると思ったら少し緩め、また少し張るという動作を繰り返して欲しいときに、船長から「ラインでだましだましこらえて」という指令が船首尾配置の航海士に出されます。船長としては係船機や係留索の様子を見ながら、無理し過ぎない範囲で、テンションを維持して欲しいのです。

「テイシュウ」

テイシュウとは漢字で「定修」と書き、定期修理のことです。タンカーやLNG船では陸上ターミナルが定期的に陸側のLoading Arm/Discharging Armやパイプ・バルブを整備・修理することを略して「テイシュウ」と呼んでいます。例えばLNG船が寄港する揚荷ターミナルで、通常は陸上アームを3本つないで3条揚げするところをテイシュウのために2本だけを使用して揚荷することがあります。これを「テイシュウによる2条揚げ」と呼びます。

「手仕舞い」

「手仕舞い」はこの「よもやま話」にも既に何度も出てきている言葉です。私達船員は何気なく、「手仕舞い」という言葉を使用しますが、本来の意味は「信用取引や先物取引で売買して取引を終える。」という意味です。それを船員は船橋の後片付けすることを「船橋の手仕舞いをする。」、甲板整備作業の後片付けをすることを「作業の手仕舞いをする。」と使います。特に「荷役作業の手仕舞い」は陸側と船側で荷役関係書類の作成、サイン、受領を行うので、まさに「手仕舞い」という言葉がふさわしい作業です。

「サンパン」

「サンパン」という言葉を年配の船員は常識として知っています。ところが、30歳ぐらいより若い船員の多くが「サンパン」という言葉を知らないことに驚きました。「サンパン?それは何ですか?」と聞かれてびっくりです。サンパンとは通船(Service Boat)のことです。通船のことを別名でサンパン、通船小屋のことをサンパン小屋と年配の船員は当たり前のように呼びます。サンパンはもともと中国語で、「三板」と書き、中国や東南アジアの「通い船」、「交通船」のことです。

若い人が知らないということは、時代の移り変わりで「サンパン」という言葉が死語になりつつあるのかも知れません。また、タンカーやLNG船では当たり前のように乗組員が上陸するときは、船(会社)手配の通船やサービスバスを利用していますが、コンテナ船や自動車船では、基本的には通船やサービスバスの手配はなく、自腹でタクシーを呼んで上陸しています。それだけタンカーやLNG船が恵まれているとも言えますが、逆に言うとそれだけタンカーやLNG船は上陸手段に不便な場所にしか停泊しないとも言えます。

「ダボ」

ゴルフのダブルボギーを略して「ダボ」と言います。また、ダボダボの大きめのシャツを「ダボシャツ」と言います。しかし、ここで説明する「ダボ」とは別の日本語で、漢字では「太柄」又は「駄柄」と書きます。本来は木材をつなぎ合わせるときに使用する写真(上)のような数センチの棒のことを「ダボ」と言います。英語では「Dowel」です。船で使用する「ダボ」とは、写真(下)のような圧力計や小径パイプの接続部のことです。余談ですが、関西では馬鹿のことを「このダボが!」と言います。あまり品が良い言葉ではありませんが、播州方言です。

「遊びがある」

自動車のハンドルにはある程度の「遊び」があるはずです。同じように船の世界でも「バルブに遊びがある。」、「ギアーに遊びがある。」と言います。これらの「遊び」の意味は「機械の部分と部分が密着せずにその間にある程度の動き得る余裕があること。」です。船乗り用語ではなく、機械用語ですが、船でも頻繁に使われる言葉です。不必要な遊びもありますが、意図的に必要な遊びを作っている機械もあります。

「さしを入れる」

「さしを入れる」は陸ではあまり聞き慣れない言葉かも知れません。大きなタンクがある工場でもない限り、さしを入れることはないでしょう。タンクに物差しを入れてその液面高さを計測することを「さしを入れる」と言います。レベルゲージが装備されているタンクでは「さしを入れる」必要はないでしょうが、レベルゲージがないタンクではさしを入れて測量する必要があります。

「ちょこまん」

「ちょこまん」は、ちょこちょこ動くマン(人)のことを表現するときに使う言葉で、あまり上品な言い方でないかも知れません。船でも「ちょこまん」という言葉を使い、小型船が大型船の近くをちょこちょこするようなイメージから「ちょこまん」と言います。例えば「あの左舷に見えるちょこまんが本船の船首を横切ろうとして邪魔だ。」と使います。

「めっつぁん」

「めっつぁん」とはMateの卑下した、あるいは、くだけた言い方です。昔の船長や一等航海士は部下の航海士を「サードめっつぁん」「セカンドめっつぁん」と呼んだものです。英語の「Mate」には「Officer」と同じ「航海士」という意味がありますが、Officerより謙った意味合いがあり、自分のことは「サードオフィサー」と言わずに「サードメート」と言う方が良いと習いました。英語辞書によると、「Officer」には高級船員の意味があり、機関士を含めることもあります。一方、「Mate」は航海士という意味で、機関士は含まれません。

「ワッチワッチ」

「ワッチワッチ」と私達は何気なく使っていますが、陸上の人が聞いても何の意味か判らないかも知れません。例えば、荷役作業の開始当初は甲板部総員が配置に付いています。そして、定常状態になり落ち着くとC/Oから「それでは、ワッチワッチにしよう。」と指示があります。「ワッチワッチ」とは通常の4時間交代の当直体制を取ることです。総員配置による作業から当直交代制に移行することです。荷役作業の場合でいうと、荷役作業配置計画に沿った定常当直体制に移行することを「ワッチワッチ」と言います。

「バキュームがこわれる」

主に機関部で使用する言葉です。復水器や造水器は運転中は真空を維持しています。もちろん完全真空ではありませんが、相当な真空状態です。例えば、復水器の通常のVacuum値が-94kPaのときに、フランジからの空気の吸入等が原因でVacuum値が-92kPaに上昇した場合、「バキュームがこわれた。」あるいは「バキュームがくずれた。」と言います。

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