関連する法律・規則は執筆当時のものです。最新の情報は寄港地の法律や代理店に必ずご確認ください。
環境保全意識が世界中で高まる中、船上における海洋環境保全の代表的な機器である『汚水処理装置』の話です。
数十年前に乗船したバラ積船が坂出でコークスを積んで米国のロングビーチに寄港することになりました。(コークスとは飲料水のコーク(コーラ)ではありません。石炭を高熱で蒸し焼きにしたもので、鉄を作るときに酸素を取り除く還元剤として鉄鉱石に混ぜます。)
米国に寄港するのは良かったのですが、困ったことにその船には汚水処理装置(Sewage Treatment System)が装備されていませんでした。まだ世界的にも船舶の汚水排出規制が厳しくなかった時代ですが、米国ではすでに船舶に汚水処理装置の使用が義務付けられていたのです。
そこで急遽、内地停泊中に簡易式の汚水処理装置を設置しました。今のバクテリア方式の汚水処理装置ではなく、昔の新幹線の便所のように青色の液体で洗浄する循環タイプの汚水処理装置でした。当時はまだ、入港する船に対して汚水処理装置の使用を要求している国はほとんどなく、要求しているのは米国ぐらいだったと記憶しています。やはりアメリカ合衆国、自国の環境を守るために外国船に厳しい規則を押し付けることを既に30年以上前から行っていたのです。もちろん自国の船にも同じ規則を適用していたはずですが・・・
バクテリアが便所から流れ出た汚水を分解し、きれいにしてくれるというのは自然の成せる素晴らしい業です。油を食べるバクテリアもいるそうですが、人糞を食するとは恐るべしバクテリアの力です。そもそもバクテリアとは細菌のことで一応、植物科に属する単細胞微生物です。バクテリアは海水、清水を問わず、どちらでも生息が可能です。
ときどき勘違いしている人がいますが、バクテリアは海水・清水どちらでも繁殖できるので、汚水処理装置は海水で掃除しても問題ありません。バクテリアは空気が大好きなので、エアーコンプレッサーで汚水処理タンクに大量の空気を常時、送り込みます。すると、バクテリア達の見事な働きで汚水処理タンクに貯まったトイレの汚水がきれいに浄化されます。そして浄化された水を最後に塩素剤で消毒して船外へ排出すれば、完璧な汚水処理が完了です。
韓国等の一部の国では汚水に関する規則が非常に厳しく、港内で船舶からの汚水の排出を一切禁止しています。例えSewage Treatment Systemで処理しても船からの排出はできません。そのため、韓国へ寄港した場合は、便所の汚水を貯蔵タンク(Holding Tank / Storage Tank)へ貯めておき、出港後、大洋に出てから排出する必要があります。船によってはこの貯蔵タンクの容量が小さすぎて、長期停泊になるとオーバーフローしそうになり、苦労することもあります。乗組員数にもよりますが、1日当たりの便所から流れ出る汚水量は10~15㎥程度です。もし、Holding Tankを設置していない船が韓国へ寄港する場合は、新たにHolding Tankを増設するか、寄港を諦めるかのどちらかです。あるHolding Tankを所持していない船では苦肉の策としてBallast Tankに汚水処理の配管を増設して、港に停泊しているときは便所の汚水をBallast Tankに入れています。きっと、その船の航海士は当該Ballast Tankの内検するときは気が進まないはずです。