人の移乗に使用する重要な装置である『舷梯』のトラブルの話です。
舷梯トラブルで特に多いのが、エアーモーターの固着やブレートの磨耗によるパワー不足によって舷梯が降りない・収納できないというトラブルです。他にも例を挙げると、舷梯のスタンションを立てたままデッキレベルまで巻き揚げてスタンションを構造物に当てて曲げるトラブル、舷梯スタンションのロープを緩めないまま舷梯を降ろしてスタンションに力がかかり曲げるトラブル等々枚挙にいとまがありません。
以前、珍しい舷梯のトラブルを経験しました。ある船で氷点下5度以下となる極寒の海を航行中のことです。入港準備として舷梯の作動テストを実施しました。舷梯を降ろすときはスムーズに降りたのですが、揚げる時には力がなく非常に低速でしか揚がりません。エアーモーターの不具合かと機関部でエアーモーターを開放点検してもらいましたが、異常はありません。結局はエアーパイプ内のドレンの凍結が原因でした。揚げる方向のエアーパイプ内のドレンが凍結してエアーの通りが悪くなっていたのです。凍結しているパイプにお湯を掛けて内部の氷を溶かすと、元通りの正常な状態に復旧しました。
さらに以前乗船した船でのパイロットラダーのトラブルです。右舷側のパイロットラダーが古いので新品に交換しようとしてリールから取り外したところ、写真のように切断してしまいました。マニラロープは見た目はそれほどが劣化していないようですが、2本のロープをマーレンでシージングしている部分が何箇所も切断してしまいます。
手で触ればヤーンがボロボロと粉のように千切れてしまうのです。明らかに材質の劣化です。恐らくシージング部に雨水が入りこみ、高温で多湿な環境にさらされて劣化したことが原因だと思います。パイロットラダーの交換基準はOPM等で明確に取り決めておくべきです。
舷梯のスタンションを曲げる事故もありました。事故自体はスタンションが曲がっただけで、機関部で曲がり直ししてもらい、簡単に復旧することができました。デッキレベルでハンドレール中段の安全索をラッシング固定したまま、舷梯を下げると引っ張られて、固定していた踊り場の取外し式のスタンションが曲がったのです。
舷梯(Accommodation Ladder)の設置する向きですが、昔は船首向きに舷梯が降りていく船もありました。しかし、近年はパイロット協会のポスターに「下方を船尾方向になるよう設置する」と明記されているように舷梯は船尾向きに降下することが要求されています。船の進行方向とアプローチするパイロットボートの関係を考えると舷梯は船尾向きに降りる構造のほうが明らかに安全に作業できます。船首向きの場合、パイロットボートが本船の後ろ側からアプローチする場合に操船が難しく、パイロットの乗下船が危険となる可能性が高くなります。
ある船でパイロットの指示に従ってコンビネーションラダーを水面上3mに用意しました。ところが、パイロットが乗船してきて「本船のラダーの高さは4m以上あって高すぎたよ。」とクレームを言われました。ボースンに確認すると、意地を張っていつも通りの高さに準備したと主張します。しかし、実際には毎日、パイロットボートから乗船しているパイロットの指摘の方が正しいのだと思います。パイロットボートから乗り込むときに他の船より高ければ直ぐに気が付きます。結局、甲板部の高さ調整が適切でなかったことになります。確かにデッキ上から目測で海面上高さを調整するのは簡単ではないでしょう。高さ調整のコツとして、パイロットラダーのスプレッダーとスプレッダー間の距離を知っていれば、海面上高さとの比較もし易いはずです。