現在のパイロットラダーはウィンチ・リールに巻いたラダーをエアーモーターで降下させたり、巻き揚げたりするだけの非常に簡単な操作で準備・収納が可能ですが、昔はストアーに格納しているラダーを台車で舷梯付近まで移動させ、数人がかりで降ろしたり、巻き上げたりして準備・収納するために、多大な労力と時間のかかる作業でした。
さらに過去にはパイロットラダー自体を昇降させたり、プラットフォームを昇降させたりする「Mechanical Pilot Hoist」が便利であるという理由で、使用している船がありました。しかし、Mechanical Pilot Hoistのトラブルによってパイロット乗下船時に人命にかかわる重大事故が多発したため、2012年から使用は禁止されています。
舷梯(Accommodation Ladder)以上に傷みの激しいのがパイロットラダーです。木製のステップやスプレッダーは使用するたびに傷みが進行し、ときにはパイロットボート接舷時に強く接触して折損することもあります。また、サイドロープはマニラロープ又は同等材質ですが、経年劣化が予想以上に激しいときは破断の危険もあります。
私が経験したトラブルとしては、新替えしてから2年程度しか経っていないパイロットラダーのサイドロープが突然、破断してしまいました。サイドロープの状態は見た目には良好に見えましたが、着実に劣化が進んでいたようです。
また、ある船では各ステップを水平に保つために付いているステップ上下部分の固定ピースのシージングが緩んでしまい、固定ピースが脱落していました。
途中のステップやスプレッダーが折損した場合、新替えするにはサイドロープから多数のステップを引き抜く必要があるため、相当な労力と時間を要します。そこで簡単に応急修理ができるように補修用ステップや補修用スプレッダーがあるのです。これらはパイロットラダーの途中からでも挟み込むことが可能なので、簡単に応急修理が可能です。但し、あくまで仮修理なので、最大2個の仮修理しか認められておらず、出来る限り早急に本格的修理又はパイロットラダー一式の新替えが必要です。当然のことながら、航海士は補修用ステップ&スプレッダーの所有枚数や保管場所を確認しておくべきです。