重量や温度は、大まかな数字でつかんでおく

甲板作業や荷役作業を行うに当たり、把握しておくべき『圧力、重量、温度』の話です。

大型船が錨泊するときは錨地まで残り2、3マイルとなったところから投錨完了するまで計画以上に時間がかかるものです。計画ではS/B Engineから30分で投錨するように計画していても、実際は45分、1時間と所要時間が延びてしまいます。船長はどうしても狭い場所に錨泊する場合は安全性を考慮して慎重になります。そのため、錨地手前の最終段階で船速を早めに落としすぎて、自分で予定していた目標地点まで辿り着かない間に船速が遅くなりすぎてイライラすることもあります。逆に障害物のない広い場所で錨泊する場合は、少々予定地を行き過ぎても問題ないことから精神的に余裕もできて、計画通りの操船で投錨できることもあります。

私の場合、Ballast状態の大型LNG船で(残距離の2倍+2ノット)を船速制御の大まかな目安としています。例えば錨地まで5マイルで 5 x 2 + 2 = 12ノットとなりS/B Eng.です。残り3マイルで8ノット、残り1マイルで4ノット、残り5ケーブルで3ノットとなります。しかし、実際には十分な余裕をとるために、この目安よりも早め早めに船速を落としての投錨となります。これはあくまでも参考例ですが、このように様々な事象に対して大まかな数字を自分でつかんでおくことが航海士には求められます。

他にも例えば、大型LNG船では海水比重が1.025から1.024へ変化すると船体が1cm沈みます。海水比重の0.001の変化が喫水変化1cmに相当するのです。また、大型LNG船のTPCは約100~110トンです。10,000トンで1mの喫水変化です。偶然ですが、大型LNG船では比重0.001で1cm、100トンで1cmと覚えやすい数値になっています。さらに大型LNG船の主機回転数の4rpmが約1ノットに相当します。その他にもタグ力、風圧力、潮流力、錨の把駐力等々の大まかな数字を頭に入れておけば、航海士として咄嗟の判断を求められるときに、きっと役立つはずです。私達航海士は巨大な力を持つ自然現象や大きな力で作用する機械を相手に仕事をしているので、船を取り巻く環境の大きさ、力、重量、温度等の概略を頭に入れて仕事をすることが求められています。

話は変わりますが、大型船が約4ノット以下の極低速状態になると、その操縦性能は著しく低下し、船長は操船に苦労します。特に狭い錨地やパイロットステーションへ向かうときは要注意です。潮流の強い場所で極低速状態となり、操船困難な状態に陥らないようにすべきです。

30年以上前のことになるでしょうか、LNG船が浅瀬に座礁するという大事故が発生しました。Cargoを積んだLNG船が戸畑へ入港するときに、荒天のため着桟が延期となりました。そこでパイロットはVHFで本船に乗船中止・入港延期を連絡しましたが、本船との連絡が不十分だったのか、遅かったのか本船は六連島沖の狭い海域まで進入していました。そこで反転して沖へ出ようとしたときに圧流されて座礁したのです。悲劇はさらに続きます。そのときの船長は外国人でしたが、責任を感じてピストルで自殺したそうです。そんな痛ましい事故があってからは、戸畑へ入港するLNG船のパイロット乗船位置は関門港から遠い蓋井島付近となりました。

昔、私もLNG船で戸畑へ入港する機会がありましたが、潮のたるみ前の時間帯でも潮流は2ノット近くあり、どんどん浅瀬や島のほうへ流されて行き、多数の反航船や同航船が輻輳する海域で極低速にしてパイロットを今か今かと待っていました。もちろん、いざとなれば直ぐに反転できる海域を確保することは忘れませんでしたが、非常に危険な状態であることは間違いありません。

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