『3/Oがときどきやってしまう混乱や勘違い』の話をいくつか紹介しましょう。
出港喫水
ある船で3/Oが作成する2つの書類にそれぞれ異なる喫水が記載されていました。代理店に渡す「コンディションスリップ」の出港喫水と「パイロットカード」の出港喫水が異なっていたのです。基本的に出港喫水は一種類であり、統一すべきです。代理店とパイロットに対して異なる出港喫水を申告してはいけません。この喫水の混乱を何気なくしてしまう3/Oがときどきいます。
入港前に計画した出港喫水を使用すれば良いのですが、出港前に自分でドラフトチェックをすると、そのときの実測値を出港時の喫水として記入してしまい、結果として2種類の出港喫水が存在することになるのです。ですから、船内で意思統一して、入港前の計画喫水をOfficialの出港喫水とするのか、出港前の実測値をOfficialの出港喫水にするのかを事前に取り決めておいて全員が共通認識しておく必要があるのです。
報告すべき喫水
ある3/Oが入港前にVHFでPort Controlへ本船のDraftを報告しました。その喫水がMean Draftの喫水だったのです。あきらかに思慮不足です。3/Oは何気なく平均値を計算して喫水を報告したのでしょうが、一歩踏み込んで考える必要があります。当然、港では本船の喫水と水深の関係が重要となるので、この場合に報告すべき喫水は本船の最も深い喫水、「Deepest Draft (Max Draft)」です。
例えば、B/Sとなっている場合は船尾喫水がDeepest Draftです。Even Keelでサギング状態となっている場合はMidship DraftがDeepest Draftとなりますが、ホギング状態ではMidship DraftがDeepest Draftにはなりません。状況を考慮して相手が「Deepest Draft」と言わなくてもDeepest Draftを報告すべきです。船首喫水、船尾喫水を明確に報告するか、両方の喫水を報告しないのならば、最深喫水を報告するのが常識です。通常はPort ControlやVTS側でも誤解のないように必ず「貴船のDeepest Draftを知らせよ?」と聞いてくるはずです。
ある3/Oが入港時と出港時の両方のパイロットカードの「Displacement」の欄に満船時の値を記入していました。パイロットが必要な情報は現在の本船の状態です。当然、空船状態では軽く、満船状態では重くなるはずです。パイロットはその重量によってタグボートの使用方法や船速制御の加減を調整するのです。それを何も考えずに毎回同じ値を記入しているのは当然、間違いです。パイロットがパイロットカードから何を読み取りたいのか、パイロットの立場になってよく考えて下さい。
航海次数
航海数の数え方、航海の終了・開始の定義、航海番号の付け方等は、その船によって様々な取り決めがあります。そのため、船内で混乱することが多々あります。単純に処女航海からバラスト航海を001Bから積算し、積荷航海を001Lから積算するだけの航海数の付け方だと単純でわかりやすいのですが、そこへDocking Voyageが入ってきたり、顧客(チャータラー)の定義によるVoyage Numberが混在すると話がややこしくなります。
例えば、LNG船ではS103/11-FU008-SL326-0177という非常に長い番号・記号を航海番号にする場合があります。そして、さらにややこしいのが、通常は揚地で荷物を揚げ終わって航海が終了し、次の航海が始まるのですが、LNG船の契約形態によっては積地で航海が切り替わって積地で航海数が増える場合があります。この場合、片航海ずれた2つの航海番号が同時に存在することになり、混乱してしまいます。
操練実施日
操練実施日の数え方も混乱することが少なくありません。例えば3月3日に救命艇の進水及び操船の操練を実施して、次の同操練をいつまでに実施すれば良いでしょうか?船舶の種類にもよりますが、一般的には3か月毎ということは3か月以内と理解され、3月3日から3か月経つ日以内ということで6月2日までに実施する必要があります。
決して3月末までに実施すればよいというわけではありません。但し、実際にその期日までに操練ができない場合は、荒天や運航スケジュール等の理由により操練が実施できない旨をログブックに記載しておけば、操練の延期をほとんどの検査員が認めます。もちろん延期が何ヶ月にも及ぶことは許されず、できる限り早期に実施することは言うまでもありません。
Bay PilotとHarbour Pilot
日本ではパイロット制度の改革が進んではいますが、未だにBay PilotとHarbour Pilotの分業が続いています。(2017年現在、五大水先区においてBayとHarborは一本化されました。)世界中を見てもPilot業務でBayとHarbourを分業にしている国は少ないはずです。ですから、慣れない外国人3/OはBay PilotとHarbour Pilotの区別がつかずに混乱している人が多いようです。
出港前のパイロット乗船はほとんどの場合、Bay Pilotが先に乗船してきます。少し遅れてHarbour Pilotが乗船してくるのですが、なぜBay Pilotが先に乗船してくるのでしょうか?理由は定かではありませんが、Bay Pilotは遠くからやってくるので、それだけ時間に余裕を持って自宅や事務所を出発するため、結果として早めの乗船となるのかも知れません。
行き先信号
日本の海交法や港則法に定められている行き先信号を理解できずに混乱する外国人3/Oが多いようです。日本ほど行き先信号を細かく定めている国はないかも知れません。浦賀水道航路・中ノ瀬航路や関門港ではたくさんの信号パターンがあり、覚え切れるものではありません。もちろん日本人3/Oは行き先信号を覚えていなくても、完璧に理解していると信じています。
外国人3/Oはどこでどの信号旗を揚げるのかわからず、毎回のように船長やパイロットに教えてもらっています。船長でさえ、ほとんど覚えておらず、いちいち調べないと判らないことが多いので、外国人3/Oに完璧に理解せよというほうが無理なのかも知れません。頻繁に航行する航路や港の場合は、旗の絵で判りやすく表示した「Signal Flag Manual」を船橋に準備しておきましょう。
ちなみに行き先信号など掲げても意味がないと思っていましたが、関門海峡の戸畑へ入港するときには、非常に有効でした。関門港では小型の内航船が輻輳しています。そんな中を大型船が航行するのですが、横切りや行き会い関係となる船がどの方面行きかを識別するために、手っ取り早い方法は行き先信号を見ることです。相手船が規則を守って正確に行き先信号を揚げていれば、これほど相手船の意図がわかりやすいことはありません。もちろん視界が悪いときや、相手船の向きによっては行き先信号が見えないときもあります。(残念ながら、最も行き先を知りたい小型船の多くがAISを搭載していません。)
海上交通安全法の航路
皆さんは海上交通安全法が定める航路をすべて言うことができますか?意外とこれが難しいのです。一度、自分で指折り数えて見てください。結構多くの人が関門航路を含めてしまいます。しかし、関門航路は関門港の航路であり、海交法適用海域ではありません。正確には港則法の適用海域です。ですから海交法適用航路は、浦賀水道、中ノ瀬、伊良湖、明石海峡、備讃瀬戸東・北・南、水島、来島海峡、宇高東・西の11航路です。
以上、多くの3/Oが混乱する話でしたが、これらの混乱は深く理解して経験を積めば解消されるはずです。3/Oの皆さんは「混乱ゼロ」を目指して、一つずつクリアーして下さい。