船で度々発生する『食事に関するトラブル』の話です。あるChief Cookが泣きそうな顔で私に直訴してきました。クルーから食事に対する不満が出ており、マンニング会社の配乗担当者から自分自身にどうなっているのか問合せが来たというのです。詳しい事情を聞いて見ると、クルーの食事に対する不満とは「食事のおかずの量が少なすぎる。」という不満でした。この乗組員の不平に船長が対応するに当たって、まず確認すべきことは食料が少ないということが客観的な事実であるかどうかです。
その不満が誰から見ても妥当なものであるかどうかです。どれだけの食事量が適当で、どれだけでは不足かの基準があいまいです。一部の不徳な者が贅沢わがままになって、好き勝手なことを言っているのであれば、その不徳な者を諌める必要があります。逆にほんとうに食事量が少ないのであれば、改善すべき問題です。食事の量が少ないかどうか、良く状況を分析して、その真意を確かめことが重要なのです。
そこで私は過去の食料購入状況について詳細な調査をしてみました。その船は日本-豪州間航路に就航する船です。そのため食料補給は当然、日本か豪州の港となります。豪州ドルのレートも上がり、両国の食料の価格もじわじわ上昇しているのは間違いありません。それに比べて、「食料参考金額」はこの10年以上値上がりしていません。当然、同一金額で購入できる食料の量は価格の安い港では大量に仕入れることができますが、高い港では量を減らすしか手段がありません。
以前にも述べましたが、船の食料は現物支給ですが、会社は「食料参考金額」を設定しており、それに基づいて食料を港で購入しています。船長としてはそこにジレンマがあるのです。食料金はできる限り参考金額内に抑えたい、しかし、乗組員のために少しでも沢山美味しい食材を仕入れてやりたい。
本来は食料は現物支給なので量を減らして調整してはいけないのですが、どうしても「食料参考金額」から予算を算出するため、食料の量が目減りすることになってしまいます。魚を1匹のところが半分になったり、航海中に飲むコーヒーが不足したり、エビ料理が出なくなったり、乗組員の間で様々な不満が蓄積されていました。そこで、やむなく当面は食料を10%程度増量して補給することとして乗組員の不満を解消することにしました。
このような問題が発生した場合、その不満の芽を早急に排除することです。食料問題は過去から現在に至るまでしばしば起こっている問題です。味がまずい、量が少ない等々。食料に関するトラブルは昔の日本人全乗船でもしばしば起こりました。私の記憶しているところでは、昔の日本人全乗船の頃、定期的に「船内食料委員会」なる会議が船内で開かれ、船機長以下各部の食料委員が集まって、食事に関する問題や不満を話し合って解決するようにしていました。食事を作るCatering部へ個人が文句を言っても喧嘩騒動になるだけです。ですから「船内食料委員会」のような公式の場で各人の不満を話し合って公正かつ円満に解決するのです。
今回の食事量のトラブルには続きがあります。食料の補給量を増やして数ヶ月経った頃です。今度は食事の味が不味いと不満を言い始めました。私の懸念していた通りでした。こうなることは予想していました。人間誰でも一つ要求が通れば、さらに要求はエスカレートしてくるものです。量に満足すると贅沢になり、より美味しいものを食べたくなるものです。それが人間の性なのです。
