『航海士の職務は理系か?文系か?』どちらの仕事であるかを考えます。
皆さんは「定性的」と「定量的」の違いを意識したことがありますか?この言葉は研究分野では日常的に頻繁に使われます。「定性分析」といえば物質の成分を確かめることで、「定量分析」といえば、物質の成分の分量を測定することです。それを航海士に例えてみましょう。
大洋航路の選定で北航路と南航路のどちらかを採用するかを議論するとき、「低気圧が毎週のように北寄りに通過して、北方海域は時化ており南航路を採用します。」と相手に説明したとき、「説明が定性的すぎる。もっと具体的な定量的根拠を説明してもらわなければ納得できない。」と反論されます。
例えば、もっと「定量的」に説明すれば、「10日間に1度は北緯40度以上の高緯度を低気圧が通過し、海上に4m以上の高波高域が発生し、30%以上の速力低減が予想されるので、南方航路を採用します。」となります。「定性的」とは性質的側面に注目して物事を見ることであり、「定量的」とは量的側面に注目して物事を見ることです。一般的には社会学や経済学等の文系分野の研究で「定性的」なアプローチが多く、工学・理学分野の研究で「定量的」なアプローチが多いのです。航海士の職務内容を見ると、やはり数値で物事を分析し、判断する仕事が多いので、皆さんも是非「定量的」な分析、評価、判断を行うよう心がけて下さい。
Fire PumpやEmergency Fire Pumpをスタートさせて、消火ホースから出る海水の流量が十分かどうかをノズルからの海水の出具合を目視のみで、判断する航海士が意外に多いようです。デッキから船橋へ「Good Pressure Sir!」と報告されても、船橋から目視できない場合はどのようにGoodなのか状況が全然わかりません。航海士なのですから客観的な数値「圧力」で報告して下さい。そのためにはFire Stationに設置している海水ラインの圧力計でチェックします。「甲板上の海水圧力は3.5 kg/cm2、Good Pressure Sir !」と報告すれば、船橋にいる船長は海水の出る勢いがどれくらいか容易に想像できます。火災時のこの客観的報告の担当者には2/Oが適任です。
2/Oが刻々と変化する海水圧力を船橋や現場へ報告して下さい。その報告を元に現場がホースの数やポンプの吐出圧力を調整すれば良いのです。海水ラインの圧力は、甲板上で3~4 kg/cm2以上あれば十分です。言い換えればポンプ吐出圧はHead分を考慮して5~6 kg/cm2以上の圧力が必要となります。航海士はこのように客観的数値で把握・報告すべきです。航海士は何事に対しても定量的に報告するよう心がけて下さい。
しかし、理系の能力だけでは航海士は務まりません。そこには乗組員を管理したり、コスト意識を持ったり、顧客の信頼を得て満足させるための交渉力や説明力も必要で、文系的要素が多分に含まれます。航海士は文理併せた技能を有する職業です。
余談ですが、自社養成コースの訓練生と一緒に乗船する機会がありましたが、文系・理系に関係なく、高い目標を持った熱い思いと学校教育で学んだ高度の基礎学力と柔軟な理解力、さらに船員にふさわしい骨太の精神力があれば、職員候補生も優秀でりっぱな船員になれるという印象を持ちました。