推進器と舵

安達 直安達 直

櫓櫂舟から巨大船までを操ることに恵まれた海技者として、また、その海技力を礎にした船舶管理者として、海運が急成長した時代を生きて心に残った経験や持論を纏めておきたい。これが、島国に住みながら何故か海洋と船舶に心の底から馴染めないのか、それらを文化基盤と成し得ていない日本人への水先案内になればと思っている。海や船に関わっている人か否かを問わず、それらの素養として読んでもらいたい。

制御

貨客を積み込んで安全に浮いているだけでも船舶と定義されるが、それを他力に任せず自力で目標に向け動かすには推進器と舵を装備する必要がある。これらを駆動し制御するシステムの完備は、貨客輸送の安全航海を担保する「船舶の堪航性」の基本要素となっている。船舶の推進器として最も普遍的なのが数枚の螺旋翼:「スクリュー」であり、その代名詞にもなっている。水を放出する反作用で推進させるポンプ式もあるが、その多くは内蔵する回転翼で水圧を高めて噴射させておりスクリューの原理と大差はない。

初期の動力船は両舷に「外輪」と称する水車式の推進器を備えていたがスクリューの発明により実用から消去された。船内から水中に延ばした推進軸の先端に取付けられたスクリューを回転させ効率的に水を押し遣り推進力を得ている。外輪のように空気と水の境界面でバタバタと波立てないので馬力の浪費が少なく画期的な推進効率をもたらした。

しかしこれが世に出た頃は、見た目に大きな外輪に対して小さなスクリューが如何程の推進力を発揮するのか疑問視された。実際に確かめようとそれぞれの推進器を備えた同馬力の船同士を船尾で繋ぎ綱引きをさせた結果、スクリュー船が勝ったとの話がある。

以来、効率が良くて使い易いスクリューは船舶の推進器としての王座を譲らない。機関の回転軸を船尾外側へ貫通させ、その先端にスクリューを装着する形式が一般的である。他に船外機やスタン・ドライブ船内機では、垂直回転軸に傘歯車を介してスクリューを取り付け全水平方位へ推進可能として舵を省いた方式もある。推進機関の回転は変えずスクリューの翼角度を変えて推進力を加減・前後進転換できる方式もあり、それらを合体した方式等が開発されている。小型ボートから大型船迄に対応でき、回転翼の直径10㎝から10m程度の最適な大きさと形状が工夫されている。かようにスクリュー式に取って代わるだけの優秀な推進器は実用化されていない。

470級ヨットの舵柄:ティラーと舵

470級ヨットの舵柄:ティラーと舵

もう一つの重要機器は船舶の針路を制御する舵であり、多くの機種が開発されているが原理は同じである。舵の外観から簡単に表現すれば、船尾中央の船底付近に兆番、或いは舵軸受けを介して取付けた回転軸を持つ翼状断面の板である。

この「舵板」の水流に対する角度(舵角)で発生する揚力により舵取付け部の船体を左右に動かしている。舵板を転回させる「舵取り機構」は、小型船の「舵柄」や「舵輪」と舵の連動操作をみれば一目瞭然である。最も簡便な舵取り装置である「舵柄」は、それを左右に振れば蝶番を介して舵面が反対側に動くので、咄嗟の転舵に殆どの初心者は舵柄の操作方向を間違える。至近距離で相手船や障害物を発見した時、それを航過させる舷とは反対舷側、即ち相手船や障害物の側へ素早く舵柄を振らねばならない。この回避動作は切迫する物体の方へ舵柄を差し出すのだが、逃げようとする本能とは逆なので体が覚える迄に修得しておかないと咄嗟の避航に不安が残る。また「舵柄」は直接に人力で舵を動かすので、操船者が船舶の旋回しようとする力を把握しながら的確に針路の振れや旋回挙動を制御できる簡便な機具としても小型ヨット等で重宝されている。

15万重量屯タンカーの舵とスクリュー

15万重量屯タンカーの舵とスクリュー

片や「舵輪」は、その転回と船舶の旋回が同一方向に仕組まれており、パワー・ステア式もある。自動車のハンドルと同じく人間の行動本能に合せてフール・プルーフ化された機構である。もう一つ肝腎な操舵の要点は、当り前ながら地を這う物体と違って水や空気に浮かぶ物体特有の旋回に伴う外側への横流れである。

これはボート事故の最大原因となっており、この動きを勘案して操縦しないと座礁や衝突の悲劇に遭う。船舶の旋回を能く制御するには、船舶のサイズに見合った舵力が必要となる。航行中の大型船の船尾には噴出する推進流が、舵を取る度に容赦なく攪拌・屈曲されるのが観える。

舵力を簡潔に知るには、小型船ならば舵に直結した舵柄や舵輪を握ればよい。しかし、大型船では舵輪を回して意図する舵角を指示すれば電気信号で舵取り油圧装置を作動させて面積100㎡超の舵を操る機構になっている。こうなると舵輪を回す力は指一本で足りるが、逐一実際の舵力と船体の軋みが如何に強烈であるかを慮る訳でもない。生物か機械かを問わず巨大化したシステムは、鈍感で力任せにならざるを得ないのか。

油圧式の操舵機構

油圧式の操舵機構

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