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波浪の性質

安達 直安達 直

櫓櫂舟から巨大船までを操ることに恵まれた海技者として、また、その海技力を礎にした船舶管理者として、海運が急成長した時代を生きて心に残った経験や持論を纏めておきたい。今回は波に関する理論を紹介したい。

風浪とうねり、波浪

風が海面を波立て「風浪」を生じ、次第に波高・周期・波長を発達させ伝播速度を増す。やがて、風の衰弱や風向の急変に因って、風浪は「うねり」となって残る。無風で静穏な海面を良く観れば、複数方向からのうねりが確認される場合もある。

うねりは減衰しながら伝播する波であり、同じ波高の風浪と比較すると規則的でなだらかで整然と連なって進む。その伝播速度は時速50km以上に達することもあり、台風がゆっくり日本へ接近する場合には、うねりの方がかなり早く到達する。強風を伴って移動する台風によって変化する風浪やうねりは、互いに干渉して、時には、波高10m超の三角波を惹き起す。また、土用波は、数千km南方の台風周辺で発生した風浪がうねりとなって日本の太平洋岸へ伝播するものである。

風浪とうねりは混在しており「波浪」と総称され、浅水域の海岸に接近すると、海底の影響(浅海効果)で波高が増す。波浪の存在する海域の水深が波長の1/2以上であれば波動は自由運動できるとされ、その波浪に対して深海となる。そこでの波浪海水粒子は、波動進行方向に沿った垂直断面上を円運動しており、波浪が海水の移動ではなく波動エネルギーの伝播である事を示している。波動エネルギーは波高の二乗に比例するので、海岸に押し寄せた津波は正にエネルギーが凝縮された状態となり凄まじい破壊力を示す。

波浪の関係式

また、波浪は水深dと波長λの関係に因り、次の通り分類される。

  1. 深海波:水深が波長に比べて十分大きい。d ≧ λ/2
  2. 浅海波:水深が波長に比べて十分小さい。d ≦ λ/25

 

沖合の深海域で長時間、風Va(m/s)が連吹した場合の推定波高H(m)は、次式に拠って求められる。

H=0.03 x Va2  

風速20m/sで12m、30m/sでは27mにもなる事になる。
今までの最大波高は、1933年に米国・軍艦ラマポ号が北太平洋で観測した34mという。

波浪の周期Tw(s)、波長λ(m)、波浪速度Vw(m/s)には、次式の関係がある。

2πλ/g=Tw2
λ=1.56 × Tw2
Ⅴw=λ ÷ Tw

津波の伝播速度と高さ

海底の変動で発生する津波の速度(位相の伝播速度)は、次式で表される。

Vw=\(\sqrt {g\cdot d}\)
d:水深(m)
g:地球の重力加速度(9.8m/s2

この式から、海洋最深部1万m付近の波浪の速度は300m/s≒600kts超に達し、水深4,000mでは約200m/s≒400ktsの速力となり、波高は約1m、波長は数十kmに及ぶ。

昭和35年(1980)のチリ地震津波の場合、平均水深4,000mの太平洋上での津波速度は約720km/hとなる。この津波は一昼夜24時間弱で約1万浬=18,520km離れた三陸沿岸を襲った。同様に、水深5,000mでは約800km/h、500mでは約250km/h、100mでは約110km/h、10mでは約36km/hとなり、陸上に遡上した津波は人間を追い越してしまう。

水深d’の沖合観測地点での高さH’の津波が、水深dの海岸に達した時の津波高さHは、

\(H=\sqrt [4] {d’/d}\times H’\)

水深d’=100mで波高H’=1mの津波は、海岸等の浅水域d=1mに到来すると波高H=約3mに増幅される。

「波が襲った」に関する2つの現象

しばしば「波が襲った」と聞くが、次の2つの現象について当て嵌まると考えられる。

1つには、深海の洋上では波浪を形成する海水はその場に留まり上下動するだけなのに、速度を持った船舶が自ら衝突して恰も波浪に襲われたように錯覚される。

これらを「波浪による損傷」と分類して船舶は大きな波浪を避けるべきとしているが、肝腎なのは波浪と衝突した時の船速である。船舶は自らの速度を以って波動の壁と勝手に衝突しているので、それを止め(減速・停止)れば波浪による被災は大方回避できる。

2つには、海岸等の浅場に押し寄せた(実際には、波動として伝播した)深海波は、次第に波長が縮小して波高が増大すると共に、深部海水は海底との摩擦で伝播が遅れ、波頂部が前のめりに崩れ走る。

北斎画の逆巻く白波は大袈裟かも知れないが、前方に在るあらゆる物を一掃する。通常時の波形勾配:波高(H)/波長(λ)は1/50程度であり、波浪が急峻になり波頭が崩れる「砕波」現象は荒天時に1/20程度で発生する。

波形勾配1/10となると殆ど波頭が崩れるが、ストークス波モデルでは極限勾配を1/7としており、その頂角は120度と理論付けている。この時、峰:波頂部における海水粒子の速度は2倍以上、谷では1/2以下となる。

また、水深dが波高hの1.28倍より浅くなれば(d<1.28h)砕波すると言われる。座礁する恐れのある危険な浅所は避航せねばならぬが、海図に「砕波を認む」と記入された箇所は、火山活動等に因る不測の海底隆起を配慮して避けるべきである。芸術家やサーファーは、岸に寄せる砕波のダイナミズムに喜々とするが、爆走する砕波に叩かれれば海岸は言うに及ばず付近に航泊する船舶も容赦ない大打撃を蒙る。

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