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あまりにも危険すぎるため、保険がきかない海域

『船舶保険』の話です。

保険関係の用語で「航路定限外航行」や「除外水域航行」という言葉があります。航海士には大いに関係ある言葉なので、どういう意味か概要ぐらいは覚えておいて下さい。

船舶保険は通常、安全に航行可能な海域に対してのみが適用対象となっています。この限られた海域のことを航路定限(IWL: Institute Warranties Limits)と言います。従って航路定限以外の海域を無断で航行しても船舶保険の対象にはなりません。

これらの海域はあまりにも危険すぎて通常の保険が適用されないのです。例えば航路定限外として有名な海域としてはベーリング海、北極海があります。その他にも一般商船が航行したこともないような未測量海域を航行中に事故が発生しても保険会社は補償してくれません。従って、船が保険対象外の海域を航行する場合、船長は保険会社に何時何処の対象外海域を航行するかを事前に連絡しなければいけません。

この通報を「航路定限外航行通知(Notice of Breaking IWL)」と言います。私達が航行する海域の中にも案外と近場で航路定限外の海域があります。それはサハリン(樺太)です。サハリン付近の海域は冬期になると北方から流氷が流れてきます。そのため、サハリンⅡプロジェクトのLNG船がサハリンの積地へ向かうときも航路定限外航行通知が必要とります。(2023年現在、除外水域航行通知が必要な可能性があります)

ベーリング海と言えば、冬期の猛烈に発達した低気圧が北太平洋を通過するため、その荒天海域を避けてベーリング海に入ることがあります。ベーリング海は満載喫水線条約における航行帯域としては、季節冬期帯域(Winter Seasonal Zone)です。ベーリング海では10月から4月が冬期(Winter)となり、満載喫水線はWinter Draftが適用されます。世界中の海が熱帯域、夏期帯域、冬期帯域あるいは季節で熱帯・夏期・冬期と場合分けされており、定義された帯域に対する満載喫水線を適用しています。

では、そもそもこの熱帯域、夏期帯域、冬期帯域とは誰がどのように決めているのでしょうか?当然International Ruleである国際条約で定義されているのです。その分類方法は暴風の発生実績(確率)によります。熱帯域(Tropical)とはビューフォート8(34ノット)以上の風が吹く確率が毎月1%以下の海域です。そして夏期帯域(Summer)はビューフォート8(34ノット)以上の風が吹く確率が毎月10%以下の海域なのです。私達のイメージ通り、熱帯域(Tropical)と言えば台風のような暴風域が殆ど発生しない海域です。

同様に戦争保険においても非常に危険な海域は保険対象外となっています。この危険海域を航行する場合も船長は保険会社に何時何処の保険対象外海域を航行するかを事前に連絡する必要があります。この通報を「除外水域航行通知(Notice of Entry to Excluded Area)」と言います。

常用航路を航行している場合は問題ありませんが、就航航路が変わって、いつもと異なる海域を航行する場合は要注意です。危険な海域を航行するときは通報義務のある海域かどうか確認する必要があることを頭の片隅に入れておいて下さい。

内容は執筆当時のものです。社会情勢により常に変化していますので、必ず最新情報をご確認ください。

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