『油漏洩処理』の話です。
甲板上に流出してしまった油は拡散を最小限に限定し、回収する必要があります。甲板機器からの油漏れがないことが基本ですが、万が一油漏れにより甲板上に油膜ができた場合には、魔法の道具を使うこともあります。それは「ママレモン」です。「ママレモン」をふりかけると、たちどころにギラギラしていた油膜が消え去ります。おもしろいように無くなります。
もちろん「ママレモン」を無闇に散布して良い訳でなく、ママレモンを含んだ汚水が船外へ流れ出る場合には状況を見ながら使用しなければいけません。ママレモンを含んでいるので、船外へ流れ出た汚水は泡立ち、ママレモンも間違いなく環境へ悪影響を及ぼします。しかし、背に腹はかえられません。油を船外へ流す前に油膜を消し去るべきです。ママレモン以外にも油処理剤で油膜を消すことが可能です。しかし、油膜が消えると言っても油処理剤は油を消滅させたり、中和しているものではありません。油処理剤は油を微粒子状態に乳化させて、水中で自然浄化しやすい状態にするものです。油を微粒子にすることにより微生物や太陽光による分解を促進させるのです。
シンガポールドックでの話ですが、ドックで係留中にスコールが何度もやってきました。その度に甲板上の油分が雨によって付近海面へ流れ出て海面がギラギラしていました。最初の頃は、慌ててドック関係者にすぐに連絡し、乗組員がママレモンを使って一生懸命油膜を消していました。本船のすぐそばを時折コーストガードの巡視艇も通ります。本船が油を流していることがわかり、海洋汚染問題になってはまずいと心配しました。
しかし、数日経ってようやくシンガポールドックの状況がつかめてきました。ドック付近の海面は常に油膜がギラギラしており、スコールが来れば、係留中のどの船からも同じように油分が流れ出ています。語弊がある言い方かも知れませんが、少々の油流出がなければドックの修理・整備作業はできません。そのため、海面に浮かぶ油膜は日常茶飯事のことで、ドック側も特に気にしている様子はありませんでした。
FOやLOがデッキ上で漏洩したときに拡散や流出を食い止めるのに手っ取り早く、役に立つのはやはりソーダストです。油が漏洩した場所の周囲にソーダストをさっと撒いて防波堤を作ります。そうすれば少々の油はソーダストが吸収して漏洩は広がることなく、最悪の船外流出を防ぐことができます。ちなみに油処理に使用する「オイルキャッチャー」は商品名であり、一般名は油吸着材「Oil Absorbent Mat」です。
「ママレモン」の話をしましたが、船には正式な流出油防除資材を積んでいます。種類は「オイルマット」、「布ウェス」、「おが屑」、「油処理剤」そして「油処理剤噴霧装置」です。これらの資材を適当な場所に保管して誰にでも判るように掲示をしているはずです。ウェスなどは目の前にあれば、ついつい使いたくなるのが人情ですが、これらの資材を日常の消耗品と使用してはいけません。最近は常識として知っている乗組員が多いようですが、知らない乗組員のために「Emergency Use Only」と掲示しておきましょう。
過去、ある船で船尾係船機の油圧ラインから作動油の大量漏洩事故が発生しました。そのような事故が発生したときにそばにソーダストやウェスがなければ、対応に遅れが生じて、船外流出という最悪の事態も招きかねません。皆さんが乗船している船の防除資材はボースンストア、マニフォールド、操舵室等適当な場所に配置していますか?漏洩の可能性のある係船機やクレーンのそばには非常時に迅速な対応ができるよう防除資材を備えておきましょう。
流出油防除資材については「SOPEP(Shipboard Oil Pollution Emergency Plan: 油濁防止緊急措置手引書)」に記載されていますが、このSOPEPは船種によって「外航タンカー用」と「非外航タンカー用」等があります。さらにMARPOLの規定により大型商船では全船にSOPEPの所持が義務付けられています。