船学の動画サイトがOPEN!

陸揚げできないワイヤーは、ぶつ切りにして捨てていました

最近は海洋環境保護のために禁止されることが多くなった『廃棄物の海上投棄』の話です。

皆さんは航海中に係船ワイヤーの交換作業を経験したことがあるでしょうか?まず新品で積み込んだコイル状のワイヤーを解く必要があります。その解き方にも要領がありますが、ワイヤーを解くときはクレーンを使用してターンテーブルに載せて簡単に交換することが可能です。

ワイヤーのコイルを甲板上に置いたままでワイヤーを引っ張りだすことは厳禁です。ワイヤーに「より」が入ってしまって大変なことになります。最悪ワイヤー1本を駄目にしてしまいます。もし、船にターンテーブルを積んでいない場合にはどうすればいいでしょうか?簡単な方法は、左写真のようにワイヤーコイルの中心に棒を差し込み、それをクレーンで吊った状態にして、ワイヤー端から引っ張って解いていけば、「より」も入らずに簡単に解くことができます。

取り替えた後は使用済みワイヤーの処分に困ります。次回Dockで陸揚げするため、Bosun Storeへ保管したままとなっている船が多いようですが、時には港で廃品回収業者へ中古ワイヤーを売り払うこともあります。鉄の価格が高騰しているときは、くず鉄と言えどもワイヤーは驚くほど高値で取引されることもあります。大型船の係船ワイヤー1本の重量は1トン前後ありますからその価値は馬鹿にできません。

もし、10本以上のMooring Wireを航海中に交換して、港で陸揚げできず、船内に古いワイヤーの保管場所がなくて処分に困った場合は、最後の手段として、「海上投棄」しかありません。私もVLCC、LNG船でワイヤーの海上投棄を経験しました。Drifting中に海上投棄する場合には、ワイヤー1本をまるごとデッキから海中に降ろして投棄すれば良いのですが、航行中に海上投棄するとなると、船が走りながらの投棄となるので、プロペラ損傷に要注意です。そのため、ワイヤーを短く切断しながら、少しずつ投棄する必要があります。いわゆるワイヤーのぶつ切りです。これが甲板部にとっては結構大変な作業となります。

船外に投棄するときに最も懸念されることは、海中でワイヤーが本船のプロペラに絡みつくこと、また、ワイヤーが衝突してプロペラを損傷させることです。航走している船からの投棄作業は、海中深くワイヤーが沈む前にプロペラに絡まらないかと最初はびくびくしながらの作業となります。私が実際に行った作業では、できる限りプロペラから遠い船首付近で、できるだけ短く10m程度に切断して捨てました。しかし、慣れてくるともう少し長くてもいいかなと、徐々に長めに切断して投棄するようになり、結局40〜50mで投棄しても大丈夫でした。

よくよく考えると、船首からプロペラまでの距離は約200mもあり、例えば15ノットで航行している船の船首付近で投棄したワイヤーが船尾プロペラを通過するまでには26秒間もあります。鉄製の重いワイヤーが26秒間も海面付近の海中に留まっているはずもなく、プロペラが通過する頃には海中深く沈むので、全然心配する必要はありません。

もちろんドリフティング中に海上投棄するのが一番安全です。ワイヤーの切断作業ですが、太さ40mm以上もあるワイヤーを切断するのは非常に大変で、かつ危険な作業です。切断用の道具にはワイヤーカッター、またはグラインダーを用います。また、切断した瞬間にワイヤー端が甲板上を物凄い勢いで走りますから、怪我をしないように作業者は自分の立つ位置に細心の注意を払いながら切断作業をする必要があります。

現在では

廃棄物等の海洋投入処分は、海洋汚染の一因となる可能性があるため、国際的には「1972 年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(以下「ロンドン条約」と呼びます。) にて国際協調の下で厳格に管理されています。

引用:廃棄物等の海洋投入処分に係る新たな仕組みについて – 環境省

この記事が役に立ったら、お気に入りに登録できます。
お気に入り記事はマイページから確認できます。