航海士がいざと言うときに使用する『図面』の話です。
昔からよく言われていますが、機関士は乗船して真っ先にEngine Roomの配管やバルブ位置を自分の目で確かめるというのが基本中の基本です。しかし、これは何も機関士だけではありません、航海士にももちろん当てはまります。航海当直、荷役当直、その他山積みの職務で忙しいでしょうが、乗船してできる限り早い機会に、貨物、海水、清水、ビルジ、燃料、蒸気、エアーの各種配管、バルブ位置、タンク配置等々を把握しなければいけません。
あなたの船の甲板上のグースネック型のエアー抜きに銘板を表示がなくて、何のパイプかわからないままになっていませんか?甲板部担当の航海士として見過ごしは許されません。トラブルが発生してから、あるいは必要になってから調べるのでは遅すぎます。一刻を争う緊急時に対応すべきときがあるかも知れません。
航海士の心がけとして甲板上のパイプ類やエアー抜きが何のラインか、重要なバルブが何処にあるのか、何処に何のタンクが配置されているかを把握しておくべきです。是非、甲板上の全てのエアー抜きに乗組員以外の人間でも容易に何のエアー抜きか判るように銘板を表示して下さい。重要なバルブの銘板も消えていないことを確認して下さい。
ある船で見ましたが、下写真のように機関室の柱に下から1、2 、3と順番に大きな数字が書かれていました。機関長に「この数字は何ですか?」と尋ねると、「若い機関部乗組員に自分が今いる場所、機器が船底からどれぐらいの高さにあるか、海面レベルがどの辺りか、という作業場所と海の関係を意識させるために船底からの高さを一目でわかるよう掲示している。」と言っていました。当然、機関室で作業している人は機関室のポンプやSea Suctionが海面からどれぐらい上又は下にあるかを把握していなければいけません。
日常業務にとらわれ過ぎて意外と自分や機器が船底からどれぐらいの位置にあるかを意識していない人がいるかも知れません。特に入渠中には冷却海水のSea Suctionの高さが重要となってきます。航海士も同様に入渠中のバラスト作業を行うときにSea Suctionと海面の位置関係を知っておく必要があります。また、FPTやAPTが船底より高い位置に配置されている船もあるので、その場合は海面との位置関係、バラスト配管の太さ等を頭に入れておく必要があります。
船長時代、多くの若い航海士に「船首部や船尾部のタンク配置図を描けるか?」と尋ねることにしていました。質問の意図は、その航海士がFPT/APT、Void Space、Cofferdam、チェーンロッカー、操舵機室、FOタンク等々それぞれの位置関係を把握しているかどうかを確認するためです。意外というか、やっぱりというか、殆どの航海士がタンク配置図を正確に書くことができません。
自分が乗船している船の各タンクの配置関係を理解していないのです。チェーンロッカーをとんでもないところに描く人もいました。ボースンストアの前側、後側、下には何があるのでしょうか?操舵機室とAPTの関係はどうなっているでしょうか?ひょっとしてStern Tube Cooling Water Tankがあることさえ知らないのでは?タンクはカーゴタンクとバラストタンクだけではありません。それぞれの船で船首部や船尾部の配置関係が微妙に異なります。
従って、乗船したらすぐに本船の一般配置図でタンクの位置関係を覚えることは航海士の当然の心得です。ある船でバラストタンクの内検をしたとき、若い外国人航海士が何時まで待ってもバラストタンクのマンホール(入口)にやって来ません。何とその航海士はバラストタンクのマンホールがどこにあるのかを知らなかったのです。皆さんもこのような恥をかくことのないよう、乗船したら本船の全てのタンク配置やバルブ位置を覚えるようにしましょう。