食料や船用品を積み込むときに使用する『クレーン』の話です。
下の写真のようにクレーン・ジブに表示されている数字を見たことがありますか?「SWL 68.6kN(7t)」は、誰もが知っている通り、このクレーンの安全使用荷重(Safe Working Load)です。では、その横の「4.4m-20m」という表示は何の意味でしょうか?これを意外と知らない人がいます。
この数字は使用可能旋回半径を表します。半径4.4m以上20m以内の範囲で物の揚げ降ろしが可能であるという意味です。クレーン・ジブがこの範囲を外れる角度で使用することは許されません。ジブがこの範囲より高すぎても低すぎても使用できないのです。一般配置図(GA: General Arrangement)にもこの半径に相当するエリアが記載されていますので、一度確認しておいて下さい。
GAと言えば、GAに物差しを当てて船の構造物の長さを計測したことがありますか?GAには1/200等の縮尺率が必ず記載されています。実物の大きさの計測が現場でできない場合、図面に物差しを当てて長さを測ることにより実際の物の大きさを知るのです。物差しで10cmならば実物は200倍ですから、20mであることがわかります。この方法は航海士の常識ですので、覚えておいて下さい。船長やC/Oに「3/O、船橋からレーダーマスト頂部までの高さはどれぐらいかな?」と尋ねられたときに、現場へ巻尺をもって行って簡単には測れません。そんなときには縮尺率のわかる図面に定規を当てて、長さを測って計算して下さい。もちろん縮尺率が正確な図面であることが前提です。拡大や縮尺したコピーの図面では誤差を生じて正確な長さは測れません。
船の揚貨装置であるクレーンには5年毎の荷重テストが義務付けられています。但し、SWL 1トン以上のクレーンだけに荷重テストが義務付けられています。逆に言えばSWL1トン未満の小さなクーンは荷重テストの必要はありません。荷重テストは通常、25%増しの荷重で行います。例えば4トンクレーンの荷重テストは5トンの荷重をかけてテストすることになります。さらにドックでの荷重テストは船級のSurveyorが立会いのもとで実施します。
ある船ではマニフォールドクレーンが使えない状態で放置されていました。油圧ラインが錆びで膨らんだ酷い状態で使用するたびに油圧ラインから作動油がじゃじゃ漏れとなり、危険で使用できません。普段は使用しないクレーンなので、整備しなくても良いという考えだったのでしょうか?どうしても使用しなければならないときは、船外まで油が漏洩する可能性があり非常に危険です。クレーンの油圧ラインに「錆の花」が咲くほど長期間放置していたのは航海士や甲板部の責任です。それまでに何人もの航海士や甲板部員が乗船して甲板整備作業を行っていたはずですが、普段使用しないクレーンまで整備しようという意識が働かなかったようです。とにかくデッキに「錆の花」は許されないことは航海士・甲板部の常識として頭にいれておいて下さい。
クレーンと言えば、クレーンの有無で船種の違いを見分けていますか?遠くの船影を肉眼や双眼鏡で見てタンカーかバルカーか見分けがつかない人はいませんか?タンカーやバルカーに乗船経験がある人にとっては簡単に見分けがつきますが、経験がない人にはタンカーとバルカーがほとんど同じ船型に見えるかも知れません。遠くからでも見分ける方法は甲板上中央付近にあるクレーンや中ストアーです。タンカーにはマニフォールドクレーンやセンターストアーが必ず装備されていますが、バルカーにはありません。ですから船体中央の甲板上に注目すれば一目でタンカーかバルカーかがわかります。