自主検査として社内組織によって行う『内部監査』の話です。
英語では「Internal Audit」と言います。内部監査と呼ばれる検査が最近では、当たり前のように行われるようになりました。皆さんも知っているようにISM Code(国際安全管理規則)が1998年7月より強制化されました。ISM Codeが制定された背景には1990年前後に多発した重大海難があります。当時客船やフェリーの事故で多数の犠牲者がでたり、タンカーの事故による多大な流出油で海洋が汚染されたりしました。
そこで、何とか重大な海難事故を根絶させるための制度を全世界的に構築する必要があるという機運が高まり、IMOで「国際安全管理 (ISM) コード」が制定されたのです。ISM Codeの主たる目的はサブスタンダード船(Sub-standard Vessel)の排除です。つまり、船舶及びその管理業務の規格を明確に定め、一定基準以下の船舶を世界中の海からなくすことが目的です。その結果、海難事故や油濁事故が減少して、安全維持や海洋環境保全の改善につながるという理屈です。
船上でISM Codeが効果的に実行されているかを検証・確認するために年1回以上、社内の内部監査員の資格認定を受けた者が実施する検査が内部監査です。外部者ではなく、自分たちで自分たちの管理する船を自己点検するのが内部監査です。ちなみに陸上の船舶管理会社自体も同様の内部監査を実施します。また、船舶の保安体制を取り決めているISPS Codeに対してもISM Codeと同様に社内担当者による内部監査が行われます。実施時期は、二度手間にならないようISMの内部監査と同時に実施するのが一般的です。
この内部監査に対して船級協会(Class)が定期的に実施するのが外部監査(External Audit)です。内部監査も外部監査も監査官(Auditor)が訪船し、膨大な量のチェックリストに基づいて厳正に検査を実施します。外部監査で多くの不具合を指摘されると社内的にも対外的にも影響が大きくなってしまいます。
社内の者が行う内部監査では、どんどん不具合を見つけてもらって指摘されれば良いのです。普段、私達乗組員が気がつかない不具合、うっかり見落としていた事項を指摘してもらい、迅速に是正措置を行って良好な状態の船、検査に強い船にしていけば良いのです。そのために内部監査があるようなものです。内部監査は決して船のあら探しではありません。
内部監査・外部監査が行われると、その結果を監査官から告げられます。もちろん満点を取れれば良いのですが、実際には何らかの問題点・不具合が発覚します。その指摘された不具合には3段階の程度の差があります。最も悪い不具合を「不適合事項」と呼びます。英語では「Non-Conformity」です。これは安全運航に支障がでる可能性がある重大な不具合で、船としては最優先課題として徹底的に改善しなければなりません。
その次に重い指摘事項は「観察事項」と呼ばれ、英語では「Observation」と言います。そして、最も軽い指摘事項は「口頭注意」です。これは報告書の公には出てきません。何れにせよ、指摘された不適合事項、観察事項、口頭注意の何れに対しても迅速に是正措置を施さなければいけません。そして不適合事項や観察事項については、「是正措置完了報告書 (Corrective Action Report)」という形で会社に報告する必要があります。
本来はSIREや内部監査・外部監査は船の安全、貨物の安全のために実施するものです。ですから、私達船員にとっては自分達が気づかない不安全な部分を見つけて頂ける有り難い検査のはずなのです。ところが実際には検査員があら探しのように重箱の隅をつつくような細かなところにまでチェックして、不適合・観察事項という名の成績表をつけ、その対応に船側が振り回されているのが現状です。これら安全のための検査が実際の安全維持にどれだけ寄与しているのか公的機関が客観的数値で示して欲しいものです。