『エコーサウンダー(Echo Sounder)』や『ドップラーログ(Doppler Log)』にまつわる話です。
皆さんはドックの経験がありますか?ドック経験のある人には言わずもがなですが、左の写真が船底についているエコーサウンダーの発信器です。そして右がそのエコーダウンダーの発信器をテープで保護している写真です。なぜテープで保護しているのでしょうか?

ドックでは船底を全面塗装しますが、そのときに間違って発信器まで一緒に塗装されないようにするためです。ですから、塗装が終わって出渠前には必ずテープを剥がされたことを確認する必要があります。その重要な役目は3/O担当です。
このドップラーログの発信器の位置ですが、どの船もドップラーの発信器は船首部に設置されています。なぜでしょうか?船尾でもよさそうですが、殆どの船が船首に装備しています。その理由は船尾に行くほど船底に流れ込む泡に覆われやすいからです。出来るだけ船首側の気泡が少ない部分が発信器の装備位置に適しています。気泡が多くなると測定誤差を生じ、酷いときには船速を測定できなくなります。
一方、エコーサウンダーの発信器の装備位置については船尾に装備する船が多いようです。一つの理由は船の船体姿勢が通常B/Sのことが多く、最深喫水の場所が船尾となることが多いためです。しかし、船首側に装備している船もあります。その理由の一つはFore Void Space等の装備場所を確保しやすいことです。さらにもう一つの理由は、通常、船は船首から浅い場所へ接近するので、船首側の水深を計測することが妥当だからです。大型船になると船首尾の両方に発信器を装備しており、船橋のボタン一つで測定場所を切り替えるようになっている船もあります。
今ではドップラーログ全盛の時代ですが、私が船員になった頃にはまで差圧式ログ(P-Log:Pressure Log)や電磁ログ(EM-Log:Electro-Magnetic Log)が主流でした。差圧式ログは文字通り圧力差の大小によって船速を求める測定儀で、電磁ログは磁界の中で運動すると誘導電力が発生するというファラデーの法則を応用したものです。最近は船底からセンサーが突出していないタイプもあるようですが、昔の電磁ログはセンサーが船底から5cm以上突出していたので、入渠前には忘れずにセンサーを引き上げる必要がありました。聞いた話では引き上げるのを忘れて、ドックでセンサーをひん曲げた船もあるそうです。
センサーを引き抜くときには十分に注意する必要があります。ドックへ入渠するときはロッドのストッパーを緩めてセンサーを10cm程度だけ引き上げるだけ十分ですが、センサー交換作業時にはセンサーを全て引き抜かなければいけません。センサーは船底の貫通部から船外に突き出ているだけなので、そのままセンサーを引き抜くと、当然のことながらセンサーの貫通部から海水が物凄い圧力で噴出します。ですから、センサー部分をある程度引き上げたら、海水が流入しないように底部にあるStop Valveを閉めます。それから完全にRodを引き抜きます。
ある船での入渠前準備のときです。ロッドを少し引き揚げるだけの作業のはずが、2/Oが何を勘違いしたのかロッドを全て引き抜きました。しかもStop Valveを閉めずにRodを全部引き抜いてしまい、海水が猛烈な勢いで噴出してきました。当人はEM Logセンサー部の構造やRodの引き揚げ手順を理解していなかったのです。海水が突然、吹き出てきたときは、本人もさぞびっくりしたことでしょう。昔、機関室の船外弁が閉まらずに機関室全体が水没するという大事故が発生していることを考えれば、EM LogのRodの引き抜き作業は非常に危険であることを認識しておいて下さい。