上から攻めてくる煙、下から攻めるべきイナートガス

火災等緊急時に役立てるべき『脱出経路表示』の話です。

居住区通路に表示している脱出経路の矢印が足元30cmぐらいの高さに張られている理由を知っていますか?その理由は煙が高いところから充満して行くからです。煙は軽いので上へ上へと昇っていきます。そのため、火災が発生して居住区に煙が充満し始めても最後まで矢印が見えるように、できる限り低いところに脱出経路の矢印を表示しているのです。以前、乗っていた船で高さ1mの所に脱出経路矢印を張っていたら、検査員から高すぎると注意を受けたことがあります。

例えば、上の左側の写真では表示の高さが床から1m以上もあり、不適切です。表示が高すぎると火災で煙が廊下に充満し始めて、直ぐに煙で表示が覆われて見えなくなります。右側の写真が良い表示例です。床から20、30cmの高さに表示しています。廊下が煙に覆われ始めても最後まで逃げる方向がわかります。

次に防火戸の話です。最近は下の写真のようなMagnet Holderによってドアが保持された自動閉鎖機能付きの防火戸が多くの船で装備されています。火災発生時に自動的に閉鎖し、また、船橋からボタン操作により一斉に全ての防火戸を閉めることが可能です。通常、居住区の扉は常時「閉」としておく必要がありますが、この自動閉鎖機能を有する防火戸は例外的に開放していても問題ありません。

煙が上から迫ってくる話をしましたので、次は下から攻めるべきイナートガスの話を一つ。LNG船ではドックへ入る前にガスフリー作業を行い、その過程の中でInertingというオペレーションがあります。これはタンク内の可燃性ガスをイナートガス(不活性ガス)に置換する作業です。このときイナートガスは可燃性ガスよりも重いのでボットムフィード(Bottom Feed)といってタンクの下部からイナートガスを入れ、ゆっくりと可燃性ガスを上へ押し出します。ちなみにLNGベーパーのモル重量は約16で、イナートガスのモル重量は約31なので、イナートガスがLNGベーパーの約2倍重いのです。このように重量差が大きいのでボットムフィードで置換する方法が有効です。

このとき最も重要なことはイナートガスと可燃性ガスの境界層を壊さないことです。もし、タンク内でイナートガスと可燃性ガスが撹拌してしまうと、イナーティング作業は大幅な時間延長を強いられます。上手く境界層を壊さずにシリンダー内のピストンのようにゆっくり上方へ可燃性ガスを追い出せれば成功です。タンカーでも同様にイナーティング作業がありますが、石油ガスとイナートガスの重量差がLNGベーパーとイナートガスほど大きくないので、タンカーのガスフリー作業は境界層が壊れ易く、LNG船より時間のかかる難しい作業となります。

注意
船内設備の内容については執筆当時のものです。

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