乗船後1か月以内の新鮮な目が貴重なのです

『慣れという人間の習性』の話です。

人は不快なことや不便なことにも次第に慣れて違和感がなくなってしまいます。人の慣れとは恐ろしいもので、人は環境に対する適応能力に優れています。乗船して4、5か月経つと船内生活や船内作業・環境に完璧に順応してしまいます。不具合や改善すべき点があっても余程の不自由や不都合がなければ、気が付かなくなります。「まあいいか」、「まあこれぐらいは」と思い始めたら、知らず知らずのうちに妥協し始めた証拠です。

逆に乗船した当初はその船の問題点や不具合が非常によく目につくものです。例えば発錆状態がひどい箇所、危険表示がない場所、マーキングが消えていることなどに気が付き、「なぜ、直さないのだろう?」「なぜ、我慢しているのだろう?」「やっぱり、改善しなければいけない。」と思います。

よく言われるように乗船後1、2か月は月日が経つのが非常に遅く感じられますが、それを過ぎれば月日が経つのがどんどん早く感じます。船の仕事や生活に完全に慣れてしまって、悪気がなくても無意識のうちに不具合を見て見ぬふりをするようになるので、月日が経つのが早く感じられるのかも知れません。

ですから、乗船して最初の1か月以内が勝負です。乗船して間もないときは自分の仕事で手一杯かも知れませんが、悪い意味での「慣れ」に陥る前に出来る限り新鮮な目で見ることを心掛けて下さい。そして、不具合箇所に気が付いたら、忘れないようにメモをとり、遠慮なく上司や同僚に申し出て下さい。その新鮮な目が貴重なのです。普段から悪い意味での「慣れ」に陥らないよう心掛けて下さい。

『慣れ』に関するお話をもう一つ。昔は船用品といえば当たり前の様に日本製が多く使用されていました。しかし時代が移り変わり、船用品の多くはシンガポールやその他外地での補給となり、中国製や韓国製、ときにはベトナム製、インドネシア製、マレーシア製の粗悪品が多くなりました。当初は、シンガポールで受領する数々の船用品の品質が私達日本人の基準を到底満足させるものでなく、度々クレームして、返品したり交換したりしたものです。

しかし、いつのまにかそんな粗悪品が混ざっていても、また「いつものやつ」という感覚で受入れてしまっていませんか?外国製の粗悪品は、「安かろう、悪かろう」、「安物買いの銭失い」、「安いものには訳がある、高いものには理由がある。」です。本当に「慣れ」というのは恐ろしいものです。「初心に返って」という言葉がありますが、皆さんも日頃から悪い意味での「慣れ」という罠(トラップ)に陥らないように注意して下さい。

乗船して慣れるまでは「本船のやり方」がわからず、既に乗船している人達に作業手順について尋ねます。そこでよく聞かれる言葉が、「本船では、いつも・・・・しています。」「本船では前から・・・・している。」という返事です。また、自分が逆の立場で既に乗船している場合を考えても、新乗船者に対して説明するとき、「本船では」「いつも」「前から」という言葉を頻繁に使用しているはずです。この「本船では・・・」「いつも・・・」「前から・・・」という言葉が曲者です。

確かに「本船では」「いつも」「前から」ということは大切です。事故はいつもと異なる手順で作業をした場合に起こる可能性が高いのも事実です。ですから「本船では」「いつも」「前から」の手順で作業をすれば事故は発生しないかも知れません。しかし、その手順や作業に何ら根拠がなく意味がなかったり、効率が非常に悪かったり、まったく合理的でなかったり、最悪の場合、規則に合致していなかったりするものもあるかも知れません。

ですから、新たに乗船した場合、その船の作業手順や本船の慣例を新鮮な目で一つずつ丁寧に吟味して、改めるべきところは改めるという気持ちを常に持っておく必要があります。皆さんも新鮮な目で見て、おかしな点があれば、遠慮せずに声を上げて自分の船を良い船にして下さい。

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