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朝、目がさめてビックリ、ここはどこ?

普通ではあり得ない『とんでもない忘れ物』の話です。

人を船に置き忘れたというウソのようなホントの話。聞いた話ですが、ある船で揚荷役が夜中の3時頃に終了しました。後は荷役書類関係の手仕舞いを済ませて出港するだけです。その船は通常、朝の7時から手仕舞いのミーティングを行うので、荷役を終えてから4時間ほど乗組員は休息を取ります。その港では代理店担当者も入港時から下船せずに、最後の手仕舞いまで在船しています。そして荷役が終われば乗組員と同様に4時間程、船内の居室で仮眠を取り、出港前に起きて手仕舞いを行うことになっていました。

あるとき、いつも通り揚荷役が終了し、手仕舞いが終わり本船は桟橋を離れて無事出港しました。防波堤を通過して次の積地を目指して航行を始めた頃、何と代理店担当者がひょっこり顔を見せたではありませんか。乗組員もびっくりですが本人が一番びっくりしたはずです。目覚まし時計をセットしなかったのでしょうか。誰も代理店担当者が出港手仕舞い時にいないことに気が付かなかったのもどうかと思いますが。

幸い出港して数十分ほどで本人が現れたので、本船はあわててタグボートを呼び寄せて代理店担当者を下船させたそうです。もし、ぐっすり昼まで寝ていれば、港へ引き返すのも大変です。最近はSecurityが厳しくなり、出港前に訪船者が全員下船したことを訪船者チェックリストできっちり確認しますが、当時は確認が甘かったようです。代理店も懲りたようで、その事件があってからは、夜中の3時であろうと何時でも荷役が終了したら、直ちに下船するようになりました。

船内での小さな忘れ物は決して珍しくありません。ある船で技師が工事のために一航海便乗することがありました。その技師が下船するときのことです。工事が完了したので本船は最寄りの港に接近して、港沖でタグボートにより技師が下船することとなりました。下船前に技師がご丁寧にも船橋へ挨拶に来られました。そのときに私は何気なく、「忘れものはありませんよね。」と技師に念を押しました。その人ははっきりと「はい、ありません。」と言い切り、下船して行きました。そして、本船が港外約5マイル付近まで接近して、技師がタグボートに乗り移って下船して、直ぐに本船は次の港へ向け反転しました。

すると約15分経ったときにMess Manが、技師が使っていた部屋を掃除していて忘れ物を見つけたと慌てて報告しに来たではありませんか。見つけたものは財布です。中身を調べると現金、キャッシュカード、免許証等貴重なものばかり。次の港から郵送するわけにも行かず、慌ててVHFでタグボートを呼び出し、港へ再接近することを伝えました。本船は漁船が多い海域で再び反転し、港口へ向け進むことになりました。巨大な船が港入口付近で右往左往するのは簡単ではありません。こんなことで衝突事故でも起これば目も当てられません。こういうときは慌てず騒がず、じっくり腰を据えることです。慌ててはろくな事が起こりません。

忘れ物の中で突出して多いのが部屋の鍵です。忘れるといっても部屋に鍵を置き忘れるのではなく、本船に返すのを忘れて持って帰る人が多いのです。便乗者や工事関係者が船の空き部屋を利用した後、下船時にその部屋の鍵をポケットに入れたまま下船してしまうことが結構あります。

私が実際に経験したものでは、乗船して前任者からの引き継ぎが終了した後、部屋の鍵を受け取るのを忘れたことがあります。前任者も引き継ぎを終えてホッとしたのでしょうか、鍵をポケットに入れたまま下船してしまいました。慌てて電話して次航海の内地で送付してもらった苦い経験があります。

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