船の係留場所は岸壁だけではありません。『岸壁以外での係留方法』の話をします。
皆さんは「Double Banking (ダブルバンキング) 」という言葉を聞いたことがありますか? Double Bookingではなく、Double Bankingです。シンガポールドックのように盛況なドックでは次々と入渠する船で係留岸壁が一杯になって、係留する場所が不足します。
そんな場合は係留している船の外側(海側)に船を横付けします。この2重係留のことを「ダブルバンキング」と言います。2隻を並列にして岸壁へ係留します。船と船の間には俗に言う鯨フェンダーという巨大なゴム製フェンダーを挟み込むようにします。
外側の船からの係留索を内側の船にとるときは乾舷やビット位置が問題となります。あまりにも船の大きさが異なり、乾舷の高低差が大きい場合はOpen TypeのChockでは係留索が跳ね上がって危険なので、Closed Chockを利用します。このClosed型のチョックをパナマチョック(Panama Chock)と呼ぶ由縁はパナマ運河を通航する船に装備が義務付けられているチョックだからです。
船がパナマ運河の水門内で電車に引かれているときに係留索がチョックから外れると非常に危険です。そのためにClosed型チョックが要求されているのです。ダブルバンキングする場合は、不測の事態に備えて安全性を十分に検討し、両船の通信手段の確保、火災等の緊急非常時体制の確立、他船乗組員による盗難防止等について綿密なリスクアセスメントを実施する必要があります。
Double Bankingとは別の言葉で「STS」という言葉があります。これは「Ship to Ship」の略で、STS荷役という言い方をします。これはタンカー(又はガス船)2隻が接舷して荷役を実施する場合で、Ship to Ship Transferのことです。ICS/OCIMF発行の「Ship to Ship Transfer Guide 」 (Petroleum編とChemicals編、Liquefied Gases編があります) に詳細が記載されています。
私もタンカーで一度Ship to Shipでの積荷役を経験したことがありますが、相手も本船同様に大型タンカーで、相手船から送油される手順は陸上ターミナルへ係留して荷役する手順とほとんど変わらなかった記憶があります。但し、相手船と自船の大きさが異なるため、両船のBitやClosed Chockの位置関係には神経を使いました。
その他にタンカーならではの係留方法としてSBM(Single Buoy Mooring)があります。別の呼び方はSPM (Single Point Mooring) と言い、日本語で「一点係留」のことです。洋上に浮かぶ巨大なブイに係留する方式ですが、通常の荷役ターミナルへ着離桟するより遥かに乗組員の労力は少なくて済みます。
まず、本船を洋上ブイ手前までゆっくり接近させて、ピックアップロープ(メッセンジャーロープ)を引き揚げてウインチで巻き、次第に太くなるロープを巻き続け、最後は太いチェーンを引っ張りあげて、船首のChain Stopperに取ります。このときチェーンに付いているマーカーブイの位置を参考にチェーンを巻きます。チェーンを2本取るSBMが多いようです。係留作業が終了すると、後はマニフォールドクレーンを使ってフローティングホースをPick Upしてマニフォールドに接続します。この一点係留 (SBM/SPM) の他に昔から多点係留もありますが、係留作業・解らん作業の煩雑さのため現在は一点係留が主流です。