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あわてんぼう航海士のとんでもない勘違い

楽しい休暇が終わりに近づくと必ず受け取る『乗船命令』の話です。

私は新人の頃、会社から乗船命令の連絡があると、その日から少しずつ不安になり、気分が落ち込んで行き、せっかくの残りの休暇が楽しめなくなりました。皆さんはどうでしょうか? 私と同じように乗船決定後はテンションが下がって行き、何をやっても楽しくないという人もいるでしょうし、そんなことお構いなしに夢中で残りの休暇を過ごす人もいるかも知れません。

昔は船員課から電話で乗船連絡が入る他に、正式な乗船命令として書面(往復はがき)で送られてきました。まさに召集令状です。はがきに船名、寄港地、入港予定日、代理店の連絡先等の必要な情報が載っています。そして、返信はがきを会社へ送付して受領確認していました。

今の時代は電話というコミュニケーション媒体が発達し、さらに携帯電話もあるので、街のどこにいても乗船命令を受けることが可能となりました。電話だけでは「言った」「言わない」の言い間違い・聞き間違いのトラブルが発生するのではないかと心配しますが、最近は乗船前に事前打合せのために必ず会社へ出頭するので、乗船に関する誤解や連絡間違いは発生しません。外国のManning会社所属の船員が乗船前、乗船後にManning会社へ出頭することは昔から常識でした。契約の話や給与清算等の手続きで、どうしても出頭する必要があるのです。

一方、私達日本人船員が本社へ出頭する必要は正直言って外国人ほどではありません。電話や文書で済ませることができる用件がほとんどです。しかし、Pre-briefing & Post-briefingはISMシステム上の不可欠な手順なのです。ISM制度上は日本人船員も外国人船員も同じです。私達船員は陸上勤務でもしない限り、会社へ出頭する機会はあまりないので、絶好のチャンスと考えて、少しでも実のある打ち合わせにして下さい。

大昔のことですが、とんでもなくせっかちで慌てん坊な航海士がいました。その航海士は休暇中に船員課の配乗担当者と電話で話したとき、担当者から乗船候補の船名を聞いたそうです。乗船する船が決定したと早合点し、正式な乗船命令を受け取っていないにもかかわらず、実際に入港当日、その船に乗船しました。そして、船で初めて交代ではなかったと気がついたという逸話があります。船員課担当者はただ、参考情報として乗船する可能性があるという話をしただけですが、その航海士はすっかりその船に乗船するものだと思い込んでしまったのです。乗組員も交代予定のない航海士が乗船して来て、非常にびっくりしたことと思います。とんだ勘違いです。

また、別の話ですが、ある人が乗船するために港に行くと、同じような船種・船型の船がたまたま2隻並んで岸壁に停泊していました。そして、どちらの船が自分の船か船名を確かめもせずにファンネルや船型を見て、てっきり手前の船が自分が乗船する船だと早合点し、乗船してみると、自分の乗船すべき船は奥の船だったそうです。同型船が2隻並んで停泊していることはあまりないと思いますが、もし、並んでいたらファンネルマークと船型を見て、船名を確認せずにうっかり間違って乗船してしまうかもしれません。とんだ勘違いです。

さらに、いくつかの乗船命令に関するトラブルを紹介しましょう。乗船する船の寄港地が突然変更になり、慌てて新幹線で変更となった港へ移動して何とか乗船に間に合ったという人もいます。また、船員課が乗船する人に乗船命令は出したけれども、船に交代の連絡をしておらず、後任者が乗船して乗組員がびっくりしたケースもあります。逆に船には交代の連絡をしたけれども肝心の乗船予定者への連絡を船員課が忘れて、待てど暮らせど交代者が乗船してこないというケースもあります。

乗船命令に関して、あってはならない間違いが結構多く発生しています。

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