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操船シミュレーター、万能ではないが有効活用すべきツール

コンピューターの計算速度やグラフィック描画機能の性能向上と共に日々刻々と進化する『操船シミュレーター』の話を一つ。

私は若い頃、操船シミュレーターを構築する仕事に関わっていたことがありました。最近はそうでもないですが、一昔前までは、日本の水先人は操船シミュレーターをまるで親の敵(かたき)のように思っている人が大勢を占めていました。「実際の船と操船シミュレーターは全然違う。操船シミュレーターみたいなもので訓練しても何の役にも立たない。所詮ゲームの世界、実船で訓練しなければ意味がない。」という、アンチ操船シミュレーター派です。新しく開発された技術をアレルギーのように拒否し、古き伝統だけに固執した保守的な意見が大勢を占めていました。

しかしながら、最近では操船シミュレーターが水先人をはじめ多くの海事関係者にその有効性を含めてかなり認知されています。欧米では操船シミュレーターの歴史は古く、数十年前から船員の訓練に利用されています。欧米では戦闘機の訓練目的にシミュレーターが開発・活用され、軍事産業としてシミュレーターが発達してきたという背景があります。日本でも操船シミュレーターによる訓練が導入されています。

操船シミュレーターは3つの部分から構成されています。「①船橋モックアップ」と「②視界再現部」、そして「③コンピューター制御部」の3つです。

「①船橋モックアップ」とは模擬船橋のことで、実際の船の船橋と全く同じ機能を持った船橋を有しています。

「②視界再現部」とはプロジェクターで船橋周囲のスクリーンに映し出す視界映像です。高性能のグラフィックコンピューターと高輝度のプロジェクターによって臨場感のある海面、他航行船、物標、陸地等を大型の円筒スクリーンに投影します。しかも、最近は360度全方位の映像を再現できる操船シミュレーターも導入されています。

そして、最後に操船シミュレーターの頭脳とも言うべき「③コンピューター制御部」です。膨大なコンピュータープログラムによって、あらゆる船の運動性能を模擬することが可能で、模擬船橋の各機器や視界映像を制御し、操船実験・訓練の結果を出力・解析・評価します。

操船シミュレーターの利点はなんといっても、どんな操船環境(操縦性能や視覚情報)でも簡単に再現することが可能なことです。世界中のどんな港でもCG画像として作り出すことができます。しかも、外乱である風や潮流や波の影響も忠実に再現することができるのです。訪れたことがない港や海峡を再現して操船することができます。もう一つの利点は、短時間で効率的に繰り返し操船ができることです。集中的に何度でも繰り返して好きな場面を操船することが可能です。実船での訓練には膨大な準備と時間が必要ですが、操船シミュレーターではパソコンの再スタートで何度でも訓練が可能です。さらに言えば、例え操船に失敗しても事故にはなりません。実船訓練では、限界ぎりぎりの危険な場面までは流石に訓練できません。

また、コンピューターを使用しているので、航跡、舵角、速力、主機回転数等の操船データーが記憶されており、操船結果を容易に解析することができます。もちろん操船シミュレーターは万能ではありません。実際の操船環境と100%全く同じという訳ではありません。ですから操船シミュレーターの利点だけを上手に利用すれば良いのです。操船が難しい局面をシミュレーターで集中的に訓練して習熟後、実船実習で最終的な訓練をすれば良いのです。

さらに操船に関する規則の話を一つ。SOLASでは本船の操縦性能を船橋に掲示しておくよう規定されています。
(1) Pilot Card
(2) Wheelhouse Poster (本船の旋回径等を示した運動性能表)
(3) Manoeuvering Booklet (操船ブックレット: さらなる詳細情報)

最近の船では入港前に(1)Pilot Cardを用意し、(2)Wheelhouse Posterを船橋に掲示していますが、(3)操船ブックレットを利用できるように船橋に準備している船は少ないようです。もし、船橋に操船ブックレットを用意していなければ、必ず備えるようにして下さい。操船ブックレットに該当する書籍が無い場合は、完成図書の「Sea Trial結果の抜粋」をファイルにして船橋に置いておきましょう。

注意

文章の内容は執筆当時のものです。詳細は最新の情報をご確認下さい。

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