日本の歯医者は高いですよ、それでも治療しますか?

医療保険が適用されない外国人乗組員の『治療費の自己負担』の話です。大昔はフィリピン人船員が乗船中に虫歯になって港で上陸して歯医者に行く場合、治療費は自己負担ではなく、すべて保険適用で会社負担でした。そのためフィリピン人船員が虫歯になってもあえて休暇中に歯の治療をせずに、乗船中に日本で歯医者へ行く者が非常に多くなりました。当たり前の話です。

自宅の近所の歯医者で治療費を払って虫歯を治すよりも、乗船して直ぐに腕の良い日本の歯医者へ行って治せば無料でお得です。結果的に多くのフィリピン人船員が乗船中に虫歯治療をすることとなり、その治療費負担増大が問題となりました。そのため、今では虫歯による治療費は全額自己負担となっており、怪我による歯の治療のみ会社に負担してもらえます。このことを知らない乗組員が日本人乗組員を含めて案外多くいるようで、要注意です。

おもしろいことに、当時、インドネシア人船員はフィリピン人船員と違って保険によりカバーされており、歯の治療を乗船中に全額無料で受けることができました。但し、未確認情報ですが、現在の外国人船員の労働協約では虫歯も会社負担となっているようです。詳細は不明ですので、一度自分で調べてみて下さい。

昔は日本人船員も乗船中の歯の治療は全額保険適用で、本人は治療費を一切払う必要がありませんでした。しかし、今では日本人船員も通常の船員保険適用扱いとなり3割自己負担です。ちなみに日本人船員の職務上発生した傷病は「労災保険」扱いで、職務外で発生した傷病は「船員保険」扱いとなります。

以前乗った船で経験した外国人船員の虫歯に関するトラブルを紹介します。あるフィリピン人乗組員が虫歯治療のため内地で2回、歯科へ行きました。それから1か月も経って、すっかり忘れた頃に会社から船に送られてきた治療費の請求書を見てびっくりです。なんと請求金額は約USドルで$1,200、日本円で15万円、彼らの給料約1か月分の額です。それを知った本人の顔は見る見る青ざめたのは言うまでもありません。そのときに乗船していた日本人乗組員が病院を手配する前に本人へ確認すべきでした。「治療費は自己負担で、しかも、日本の歯科治療費は非常に高額になるけど、それでも行きたいのか?」と確認すれば良かったのですが、誰も適切なアドバイスをしませんでした。

請求額があまりにも高額であり、また、本人へ高額な治療費が発生することを確認しなかったという非が日本人乗組員側にもあると思い、会社に対して彼の支払いを減額するよう温情な措置を求めました。しかし、会社も立場上、例外を認めることができず、規則通りの判断を下すしかなく、支払額の減額は認められませんでした。残念ながら会社の判断はやむ無し。労働協約にも明確に記載されており、その外国人乗組員は知っていて当然なのですから、弁解の余地はありません。

結局、本人の下船予定日が近づいていましたが、所持金が不足しているため治療費を払うことができず、1航海延期して稼いだPOBを歯科治療費として支払って下船して行きました。当人にとっては非常に痛い経験ですが、他者にとっては良い教訓です。

この話には続きがあり、彼に同情した日本人乗組員達がカンパして合計200ドルを集め、少しでも足しになればと彼に渡しました。すると彼はそのお金で家族へのお土産にとデジカメを買って帰りました。これには日本人達もあきれて、開いた口が塞がりませんでした。

現在のフィリピン人乗組員の労働協約には虫歯に関する条項が削除されたようです。従って、虫歯が自己負担となるか会社負担となるかの取り決めは管理会社毎の判断に委ねられているようです。

内容は執筆当時のものです。

この記事が役に立ったら、
著者に感謝の気持ちを贈ったり、 お気に入りに登録したりできます。

お気に入り記事はマイページから確認できます。