森山 和基
各船種の運航実態と運航上注意すべき点について小職の経験をもとに紹介しています。前回は、LNG船、コンテナ船、自動車船について主に操船と貨物管理の観点から述べました。
今回は、VLCCとばら積み船について紹介したいと思います。小職の経験上の話ですが、ご覧いただいた方の何かのヒントになれば幸いです。
目次
VLCC
主にペルシャ湾からの輸送が多く、この為、海の難所といわれるマラッカ通峡、特にシンガポール海峡を通過しますので、通過時刻の調整は元より、潮汐と潮流も考慮した計画を立てます。
乾舷が低く、比較的風の影響は少ないのですが、巨大船なので船体強度的には、うねり等の外力影響が大きくて危険です。うねり、波浪に関しては強度的な検討を要します。荒天時の操船としては、波高の低い海域を選択します。満船時は、乾舷が低いので波高5mでも危険な場合があります。高波、うねりのあるケースを最も嫌うので、低気圧が通過した後も要注意で、ローリングよりもむしろピッチングに関しての注意を払った記憶があります。このような青波を被る(船首が海中に突っ込む) 状況は、最悪、船体の折損事故に繋がる危険な状況ですので、まずは減速航行を実施し、針路を安全な海域に向け、航路計画の変更をすることになります。
一方で、満船航海においては、流体貨物である以上、タンク内強度の制限もあり、スロッシング影響を考慮して、ローリングが大きくならないような操船を考慮しています。VLCCの場合は、このスロッシング以外にカーゴ管理上の制約を受けることは有りません。
荒天の際の避航目的での減速やStoppageは、契約上も取り決められており、ある程度可能です。他船も同様ですが、理由が正当なものであれば、減速、停止して安全海域で台風や低気圧を航過することも可能です。
ばら積み船(バルカー)
一般には、運航契約もタンカーに近く、ETAの調整は、契約期間内(Deadline)までに到着すれば良いという契約なので、遭遇した気象条件内でベストの運航が求められます。
満船での喫水は約16m程度です。乾舷はそれほど低くならないので、やや風の影響があります。空船時喫水は11~12m程度、やはり、風の影響が有ります。
構造はタンカーに近いものですが、液体貨物ではないので、コンテナ船と同様に荷崩れしないように考慮する必要が有ります。船体形状からいうと、強度的な観点はVLCC、貨物管理の観点はコンテナ船に近いイメージでありましょう。
操船に関しては、以下ご参照ください。
バルカー実操船の経験がある船長の意見です
燃料節減の為、ディーゼル発電機が自動起動しない最低の回転数で航海を行なっていた。よって、バラスト航海は13~14ノット、積み荷時は11~12ノット程度で航海。
満船だと喫水が十分に入っているので、正面左右20度以内から3mのうねりを受けると、ピッチングよりサージングが大きくなり、直ぐにスピードが3ノットほど落ちる。また、船首フレアー部でのスラミングおよび海水の打ち込みも大きくなるので、前部甲板機器の損傷を避けるため、無理にスピードは出さないようにしていた。予報気象図で、うねりが3m以内をできるだけ航行し、4mのうねり圏内には入らないように心がけた。
バラスト航海中は乾舷が大きいので、風の影響を常に受けている。またGMも大きく、横揺れ周期が小さい為、乗組員の作業中の怪我を考慮して、ここでも4mを超えるようなうねりの中には入らないようにしていた。特に荷役を待つ為に、空船でのアンカーやドリフティング時は揺れが大きく、いつも気を遣う。
気象海象からの影響は、満船時ほど影響が少なく気分が楽である。
※写真と本文は無関係です。