君はリトルクイーンを見たか?

『ペルシャ湾の入口に浮かぶ小さな島』の話です。

私が入社したころは、先輩達から「君、ニューヨークや香港に行ったことがないの?行ったことがないのなら船員としてはまだ“ひよっこ”やなあ。」とか「まだ“もぐり”だねえ。」とよくからかわれました。船員なら少なからずとも一度は訪れるであろう世界的に有名な港であるニューヨークや香港に寄港したことがない船員は、素人に毛が生えた程度であり、一人前の船員としては認められないということです。昔は5年間、10年間程度、船に乗っていれば、それこそ一度や二度はニューヨークや香港へ寄港する機会があったはずです。しかし、今はニューヨークや香港へ寄港することがとても珍しくなっています。

タンカーやLNG船を所有する会社の船員ならば、ペルシャ湾航路の船に乗船する機会が多いので、「君、リトルクイーンを見たことがないの?見たことがないなら、船員として“ひよっこ”、“もぐり”だよ。」と言われるかも知れません。また、「君、スエズ運河やパナマ運河を通ったことがないの?どこへ行く船に乗ってたの?」と言われるかも知れません。さらにLNG船では「君、ボンタンへ行ったことがないの?かわいそうに。」と言われることもあるでしょう。

私が入社して初めて乗船した船はペルシャ湾航路のVLCCでした。そして初めてペルシャ湾へ行ったとき、ホルムズ海峡にぽっかり浮かぶ島が見えました。それが「リトルクイーン」です。その島の名前ですが、入社以来数年間、その島の名前は「小さな女王様」という意味のリトルクイーン(Little Queen)だとばっかり思っていました。実は大間違い。正式にはリトルクウォイン(Little Quoin)、「小さなくさび」でした。付近にはリトルなクウォイン島だけでなく、リトルより大きなクウォインを意味する「グレートクウォイン」もあります。Little Quoinは高さ51m、Great Quoinは高さ161mです。

そして、その中間にも島があり、名前はGap Island(74m)。文字通りLittleとGreatの隙間(ギャップ)にある島です。この三つの島の名前がすらすら言えれば、あなたも立派な「タンカーマン」かも知れません。先日、LNG船でホルムズ海峡を通過したときに撮影したのが上の写真です。普段は視界が悪い日が多いのですが、当日は珍しく視界良好で、ホルムズの三島がくっきり、はっきり綺麗に並んでいるのが見えました。

私自身がリトルクウォインを初めて見てから既に30年以上経ちましたが、リトルクウォインは見るたびに緑豊かになっているような気がします。これも異常気象でペルシャ湾の降雨量が増大しているためかも知れません。そして、最近はリトルクウォインの斜面に灯台以外の設備がたくさん建設されており、夜間にホルムズ海峡を通過するとリトルクウォインが大型航行船と見間違えるほどたくさんのライトを点灯しています。

「タンカーマン」という言葉を使いましたが、最近は私のまわりではあまり聞かれなくなった「タンカーマン」という言葉。数多くのタンカーに乗船し、タンカーの経験・知見を身に付け、タンカー畑を歩み続け、タンカーの全てを熟知しているベテラン船員のことを褒め称え、敬意を表する場合に私たちはその人へ「タンカーマン」という称号を与えます。逆に、自分自身で「タンカーマン」と言う時には少し自虐的意味を含めて「俺はタンカーのことしか知らないけど、タンカーのことなら任せなさい。」と自分の利点、欠点をさらけ出すときに使います。一方、LNG船マン、バルカーマン、コンテナ船マン、自動車船マンという言葉は、語呂が悪いのか、あまり使う人はいません。

 

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