外航商船による地球規模の『生態系破壊』の話です。
昔は水質検査と並び船内衛生にかかわる検査といえば「Deratting検査」でした。「でした」と過去形になるのは、2007年6月より船内衛生の検査内容が強化され、ネズミ族の有無だけでなく、船内の衛生状態全般や蚊の生息、乗組員の健康状態等に検査対象が拡大されることになりました。船で他国へ伝染病や外来生物が運ばれるのを防止するのが狙いと思いますが、衛生検査が強化された詳しい経緯はわかりません。
証書も「Deratting Exemption Certificate」から「Ship Sanitation Control Exemption Certificate (SSCEC:船舶衛生管理(免除)証明書)」と名前が変わりました。有効期限はDerattingと変わらず、6か月です。そう言えば遠い昔、日本籍船は「衛生検査」という検査を毎年受けていました。検査の際には衛生管理者がRat Guard、ネズミ取り器、殺虫剤等の必要装備品の数量を数えて、受検用のリストを作成して受検に備えたものです。2007年からその「衛生検査」が復活したようなものです。
船内でその有無を厳しくチェックする必要がある動物はネズミだけではありません。国際航海に従事する船舶は、生態系の秩序を壊す外来動植物をある地域から他地域へ運ぶ可能性があります。例えば害虫となる蛾が有名です。アジアマイマイ蛾(Asian Gypsy Moth : AGM)という蛾は極東ロシア、中国北部、韓国、日本(一部)に生息し、船倉やカーゴに無数の卵を産みつけます。
参考
アジア型マイマイガ(AGM) に関する規制措置について農林水産省消費・安全局 植物防疫課
卵の大きさは3-4cmで、成虫の大きさは6-9cmです。この蛾の幼虫や卵が船でアメリカ、豪州へ運び込まれると、その地域の森林に莫大な被害を与えます。そのため、アジアのHigh Risk地域をHigh Risk 時期(主に夏場)に出港してアメリカ、カナダや豪州へ寄港する船舶は出港前にアジアマイマイ蛾の幼虫や卵が船上にいないことを証明する「AGM Certificate」を取得する必要があり、これを所持していない船舶は入港できません。
昨今のペットブームで外来種の動物を飼っている人が、飼育することを放棄して野外に捨てて、そのペットが野生化したという話をよく聞きます。外来種を他国へ広めるのはペットの飼い主だけではありません。外国航路の船でも様々な外来種を他国へ侵入させる可能性があるのです。動物の取り締まりと言えば、豪州の検疫検査局(アキス:AQIS)の規則や検査が厳しいのは有名です。
やはり豪州のカンガルーやコアラを外敵から保護するため、あるいはグレートバリアリーフの サンゴ礁を保護するために海外からの異種動植物の侵入を食い止めるために厳格に対応しているのでしょう。豪州の素晴らしい自然は国の宝ですから、検疫が厳しいのは当然です。ある船で豪州入港前にAQISへの提出書類に船上にいる動物として金魚2匹を申請しました。Mess Manが自分の部屋で飼っていた金魚です。
すぐに代理店経由AQISから指示がありました。申請した金魚はたとえ死んでも、死骸を海に捨てないようにとの指示です。着桟して金魚の姿がない場合、生きていたか死んでいたか、どこへ放たれたか不明となってしまいます。ですから、死骸でも証拠を残すよう依頼があったのです。私達が乗る外航商船を生態系を乱す張本人にしたくはありません。船や船会社は経済原則を優先させるばかりでなく、可能な限り環境保護、生物保護に尽力することは重要な使命です。それが会社・船の社会的責任です。