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もしも、パイロット乗船前に舷梯が動かなかったら(その3)

振り出しや格納の操作をするときにはヒューマンエラーによるトラブル発生の危険性が高くなります。ハンドレール・スタンションに取り付けたマンロープを緩めずにピンと張ったまま舷梯を動かし、マンロープに力がかかり、スタンションを曲げてしまうトラブルも少なくありません。曲がったスタンションを甲板部で手直しできれば良いですが、無理な場合は機関部にガスで焼いて修理してもらうことになります。

ヒューマンエラー防止対策の一つとして舷梯付近へ注意書の掲示が求められています。使用制限荷重や使用最大角度・最小角度等を掲示することにより使用者へ注意喚起を促しているのです。操作スタンドのリモコンレバーのUp/Downの操作方向を明確に表示することも誤操作防止対策です。

パイロットボートやタグボートの操船ミスによるトラブルも発生することがあります。パイロットボートやタグボートが舷梯に強く接触することで、舷梯が破損します。ボートの操船ミスを船側で防ぐことは難しいかも知れませんが、タグボートが接舷する場合は、舷梯をある程度の高さにキープしておき、タグボートが接舷してから舷梯を降ろすようにします。

ある船で操作ミスによる舷梯のトラブルが発生しました。舷梯使用後にエアー元弁が完全に閉まっておらずに舷梯がゆっくり降下し続けて、海中に水没してしまうというトラブルです。本来は操作レバーを中立位置にしておけば、エアー元弁を閉めなくても、舷梯は動かないはずです。しかし、このときはなぜか中立位置にしていても少しエアーが漏れており、エアー元弁を閉め忘れたために事故が発生してしまいました。舷梯使用後はエアー元弁を必ず閉めることは絶対に忘れてはいけない手順です。

人身事故も発生する可能性があります。大時化の中、大きなうねりに翻弄されたボートが舷梯を突き上げて、パイロットを迎えるために舷梯上にいた航海士があわや海中転落寸前となりました。幸い自力で踏み止まりましたが、大怪我を負うという大事故が発生しています。大時化時には舷梯を降りてパイロットを迎えに行くことは止めましょう。自分の身は自分で守ることです。

大時化と言えば、乾舷の低い満船のVLCCで、荒天航行中に青波によって舷梯を引きちぎられるという大事故も発生しています。甲板上に上がった青波が引くときに舷梯が簡単にちぎれるのです。大時化の中で満船のVLCCが甲板上に青波を打ちあげられないよう針路調整するのは困難かも知れませんが、舷梯がもぎ取られる事故も想定して、舷梯の構造変更や強度補強等の工夫が必要です。

昔は多くの舷梯が日本製であり、信頼や実績のある舷梯が多かったはずです。しかし、最近は外国製の舷梯が多く使用されており、当然のことながら信頼性に乏しく、機械的なトラブルが多発する一因になることもあるでしょう。舷梯は人の命にかかわる重要な装置なので、日頃から適切な保守整備を行い、安全な手順で操作する必要があります。そしてあらゆるトラブル発生を想定内にしておき、いざという時に備えておきましょう。

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