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目視による避航判断とレーダによる避航判断の比較:交通流による違い編

加藤 由季加藤 由季

海上交通では、VHFや汽笛により自船の操船意図を他船に伝えることがあります。このことにより、互いに認識していても操船判断が異なることを防ぐことができます。
そもそも、なぜ互いに認識していても操船判断が異なることがあるのでしょうか?
この原因は様々あり、一つに絞ることはできないのですが、私は要因の一つに情報取得手段の違いによる影響があると考えました。

そこで、私たちが発表した研究論文1)の内容を一部抜粋し、情報源は避航判断に影響を与えるのだろうかということを、2回に分けてご紹介したいと思います。

目視とレーダでは、見え方が異なる

皆様は、目視で周囲を視認しているときとレーダで状況を確認しているときとでは、交通状況の感じ方が異なると思ったことはありませんか?

下図①と②は、全く同じ交通状況ですが、どう感じますか?

①目視情報のイメージ

②レーダ情報のイメージ

船舶では、上図①に示すような周囲の風景を視認することにより獲得する情報(目視)に加え、上図②に示すようなレーダを視認することにより獲得する情報(レーダ)を用いることが普及しています。操船中は、その時の状況に適した手段を用い情報収集を行っています。

しかしながら、ご存知の通り人間には2つの目がありますが、2つのものを同時に見ることはできません。また、どの手段により情報を収集し、どの情報を重視して判断したのかは、その人自身しか知り得ず、避航するのに用いた情報を確認することは、ほとんどありません。

レーダは、レーダ映像と数値情報で構成されています。レーダ映像は真上から見下ろしたような構図で、他船がシンボルマークとベクトルで表現されており、水平方向から相対的に見渡す目視情報の表示とは全く異なる表示方式が採用されています。

これらのことから、著者らは操船判断に情報取得手段の影響があるのではないかと考え、実験によって明らかにすることを試みました。

目視のみの避航判断とレーダのみの避航判断の比較

衝突のおそれがあるかどうかを判断するためには、その時の状況に適したすべての情報を用いますが、情報源が避航判断に影響を与えるのかどうかを検討するため、目視のみ、またはレーダのみで避航する場合、どのタイミング(変針のタイミング)でどの方向(変針量)へ変針するのか調査しました。

具体的には、上級海技試験のうち筆記試験に合格しているが実航海の経験が無い者に、上に示した図の交通状況と一隻の他船が右から針路交差角90度で接近する状況を提示し、避航判断をしてもらう実験を行いました。

目視のみとレーダ情報のみを比較した結果、一隻が接近する状況でも、複数隻が存在する状況でも、両情報源共に右へ転じるという判断でした。
しかし、複数隻が存在する状況においては、変針のタイミングに情報源間で有意な差が認められ(p<.01)、レーダ情報の方が早いタイミングでした。

なお、他船が一隻の状況とは、衝突を回避する船舶以外の他船は存在しない設定で、複数隻が存在する交通状況とは、直近の衝突を回避した後に、新たに接近する船舶が存在する設定でした。

これらのことから、直近の衝突を回避した後に、次に接近する船舶が存在するような交通状況では、右転するという判断が同じであっても、変針のタイミングは目視とレーダでは差異が生じることが明らかになりました。

したがって、このような条件下では、情報源の違いは避航判断に影響を与えると考えられます。ただし、ここで得られた知見は特定の条件でのみ明らかにされた結果であり、他の交通状況や現実の状況下、経験の有無による検証を行う必要があります。

そこで、次回は経験による違いに着目し、ご紹介します。

og:image / twitter:image参考文献

1)加藤由季, 渕真輝, 久保野雅敬, 藤井迪生, 小西宗, 藤本昌志, 廣野康平: 海上交通における情報源の違いによる衝突回避判断に関する検討, 人間工学, 53(6), 205-213, 2017

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