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冬季北太平洋航路:航海中に遭遇した波向と波高

藤井 迪生藤井 迪生

前回は、ビッグデータの一種である衛星AISデータを利用して解析した運航実態から、冬季北太平洋を航行する船はどのように横断しているのか、実際のルート傾向を見ました。今回は、どのような波向、波高に遭遇しているのかを具体的に見ていきたいと思います。

この記事は、著者らが発表した研究論文1) から内容の一部を抜粋して、再編集しています。

東航は追い波、西航は向い波

前回の記事では、東航の場合は北太平洋の中央部を横断しているのに対し、西航の場合は、荒天域である北太平洋中央部を避けるように、ベーリング海(アリューシャン列島の北側)を通る場合と南側の北緯30度付近およびその以南を航行する場合とに分かれていることを示しました。
では、なぜ東航と西航とでルートが大きく異なるのでしょうか。もう少し詳しく見ていきます。
下図はコンテナ船が航海中にどの方向から波を受けたのかを東航・西航別に示したものです。横軸は相対波向を示し、図中、中央付近の0度を正船首として、右側が右舷、左側が左舷を表し、グラフ両端が正船尾を表しています。また、縦軸は確率密度を示し、棒が高いほど、該当する方向から波を受ける頻度が高かったことを示しています。

この図から、東航と西航とでは波を受ける方向が異なっており、東航では主に船尾から波を受けながら、西航では斜め船首から波を受けながら航海していたことが読み取れます。

向い波と追い波では許容できる波高が異なる?

さて、これまでの内容を整理すると「東航では北太平洋の中央部を横断し、西航ではそれらの海域を避けて横断している」、「東航では追い波を主に受けており、西航では向い波を受けている」ということがデータから明らかになりました。
さらに、下図が示すように、今回の解析対象期間は、北太平洋の中央部(北緯40度付近)の波高が高かった(荒天であった)ことが海象データから明らかになっています。

これらの事実を組み合わせると、以下の仮説が成り立ちます。「荒れている海域を避けるか否かの判断基準は、艏(おもて)から波を受けている場合と、艉(とも)から波を受ける場合とで異なる」。つまり、追い波を受けている場合は多少荒れていても航行し、向い波を受けている場合は荒れている海域を避ける傾向にあるのではないかという仮説です。

向い波と追い波別の遭遇波高

そこで、向い波と追い波別に航海中に遭遇した波高の傾向を詳しく見てみます。下図は向い波、追い波、それぞれの遭遇波高のヒストグラムです。縦軸に確率密度を取り、横軸に遭遇波高を取っています。棒の高さは相対波向の場合と同意です。

遭遇した波高の平均値は、向い波の場合は3.34m、追い波の場合は3.72mと、追い波の方が向い波よりも0.4mほど高くなっています。また、追い波の場合は5m付近までは遭遇頻度が高く、8m付近でほぼゼロになっているのに対して、向い波の場合は波高が高くなるにつれて緩やかに減少し、7m付近ではほぼゼロになっています。つまり、これらのデータから「冬季北太平洋を航行するコンテナ船は、向い波を受けて航行する場合には、追い波を受ける時よりも荒れていない海域を通ろうとする傾向にある」ということが分かります。

参考文献

1) M. Fujii, H. Hashimoto, Y. Taniguchi, “Analysis of Satellite AIS Data to Derive Weather Judging Criteria for Voyage Route Selection”, the International Journal on Marine Navigation and Safety of Sea Transportation, Vol.11(2), pp. 85-91, June 2017

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