家族と離れて海上という特殊な労働環境で働く船員へ支払われる『給与』の話です。
かなり昔から銀行でカードを使って引き出しができました。しかし、日本の銀行は都市銀行、地方銀行、相互銀行、信用金庫等に分かれており、お互いに共通のカードがなかったため、1枚のカードで日本全国どこの銀行でも引き出しができるというわけにはいきませんでした。それが、いつ頃からか手数料は取られても1枚のカードで都市銀行、地方銀行の区別なく、どこの銀行でも取引ができるようになりました。そして、近年ではさらに便利になって、コンビニで24時間いつでもカードで現金を引き出しできる時代になりました。しかし、折角便利なカードが手元にあっても、船員にとっては肝心の上陸する時間がなければ便利なカードの恩恵を受けることができません。
船によっては港に着いて荷役作業や機関整備作業で忙しいため、あるいは遥か沖合に停泊しているため、簡単に上陸できない場合があります。そんなときは銀行へ気軽に行けないため、船のためにバンス制度が設けられているのです。バンスとは英語の「Advance」の略で、前借のことです。銀行へ行って現金を引き出すことができないため、自分の給料から前借として現金を船で受け取るのです。
キャッシュレス時代で少し状況は変わってきていますが、船員の労働環境を考慮すれば、かつては絶対に必要な制度でした。ある時期にはバンスを認めない、船員は乗船時に必要な現金を持参すれば良いという会社もありましたが、とんでもない話です。船員の特殊な労働環境を考慮すべきです。街の銀行へいつでも行ける陸上とは違うのです。船員は陸上の人が想像するよりも遥かに不自由な生活をしているのです。
ここからの話は、生計を共にしている配偶者に知られると少々都合悪い人もいるかも知れませんので、ご注意願います。
私が所属していた会社では申請登録している第一口座に振り込まれる給料と、それ以外に第二口座を設定している人は第一口座の残金が第二口座に振り込まれます。 各家庭によって家計や小遣い等のお財布事情は異なりますが、第一口座、第二口座を夫婦で共有している場合、下船して休暇中に遊ぶ小遣いの額を配偶者に見透かされて不自由です。
そこで希望する人は船でバンスとして給与の前借をするのです。船での前借金を会社は好ましく思っていませんが、船という特殊環境に身を置く船員の生活を尊重するならば、前借制度は当然必要です。私がバンス(へそくり)制度に肯定的な理由は、私が第一口座しか設定しておらず、下船中の小遣いに不自由している身分だからです。その対策として乗船中に毎月少しずつバンスして、下船中の小遣いを貯めておくのです。
「へそくり」という言葉を辞書で調べますと、「主婦などが有事にそなえてやり繰りして内緒で貯めたお金」です。若い皆さんの場合は近い将来、陸上勤務が待ち構えています。陸上勤務中は家族一緒に暮らしていても、単身で生活していても、とかく物入りです。自由に使える小遣いが必要です。まさに我が家の有事です。陸上勤務期間中に小遣いに不自由するのが目に見えています。
配偶者が陸上勤務に備えて自分のために蓄えてくれていないのなら、自ら乗船中に陸上勤務中の資金をへそくりとして蓄えておきましょう。へそくりといっても何も悪いことに使うわけではありません。家族一緒に暮らしている人は家族サービスに使用し、単身の人は付き合いの飲み代やゴルフ代に使用する小遣いです。私達がやり繰りして蓄える「へそくり」はしつこいようですが「有事のための軍資金」です。決していかがわしいところで使うお金ではありません。