私達船員の商売道具の一つである『制服』の話です。
意外と勘違いしている人が多いのが、「略服」の定義です。「略服」と「標準服」を混同していませんか?ある船会社が定める「船員服装規程」によると、私達航海士が着用する服の種類は、冬正服、夏正服、夏略服、標準服(夏)、標準服(冬)、そして作業服の6種類です。
夏略服は金ボタンの半袖で、いわゆる「開襟シャツ」です。そして標準服には夏冬の2種類があり標準服(夏)は半袖及び長袖のカッターシャツのことで、標準服(冬)は紺色の長袖のことです。「状況により夏冬の正服や夏略服にかえて標準服を着用することができる。」と規定されています。(但し、船長は航海中以外の標準服は認められておらず、常に正服着用となっています。)
一応、着用期間も定められており、冬制服は10月1日から5月31日、夏制服・夏略服は6月1日から9月30日までとなっています。これは日本の陸上の一般的な衣替えの時期と同じです。もちろん日本と異なる気温の外地では、適宜船長判断で決めることになっています。
船長の勘違いで周囲の若手職員が振り回されたという制服の話を一つ。ある船で何かの式典を開催するということで、ある船長が若い航海士全員に「略服」を着用するよう指示しました。ところが、この船長は「標準服」と「略服」を勘違いしていたのです。船長本人はいつも職員が着ているカッターシャツタイプの「標準服」を式典で着用させたかったのですが、誤って「略服」を着るよう指示してしまったのです。「略服」と言われた航海士の中にはわざわざ家から「略服」を送ってもらった人もいたそうです。
防衛省の「制服組」と「背広組」。2種類の組(Team)で防衛省は成り立っています。「制服組」とは防衛組織の実務担当者、いわゆる「武官」です。「背広組」は官僚等に代表される「文官」です。シビリアンコントロール(文民統制)という言葉をよく聞くと思いますが、軍部の暴走を抑制するため、民間から選ばれた政治家が軍を治める制度です。
いわゆる背広組(文官)が制服組(武官)を管理統括するのです。船会社で言えば、制服組が船員で背広組が陸員です。陸上の背広組の代表である社長が制服組の私達船員の上に立つのも一種のシビリアンコントロールかも知れません。そして、私達船員は制服組なので、制服の持つ意義を理解し、その威厳を保ちながら自分に与えられた職務を遂行することが当然の責務です。
皆さんも入社時にピカピカの制服を購入したはずです。そして、ほとんどの航海士が船長になるまで、制服を買い替えることなく、その制服のお世話になるのではないでしょうか。極端に貫禄が付いた人は若い頃のスリムな制服が着れなくなって、購入し直す人もいるかも知れません。
私の場合はズボンのサイズ直しで何とか入社から同じ制服を着用しており、自分自身の過去の職歴を思い返すことができる窮屈で着心地の悪い制服に愛着を感じています。今も昔と変わらず、結婚披露宴の衣装に制服を着る若い人が多いようですが、若い頃はそれ以外に仕事で制服を着る機会は殆どありません。船長になってやっと制服を着る機会が増え、制服代金の元を取るのかも知れません。
