漂流する超大型タンカーの救出記録 12月13日(金)16:50〜NHKニュースシブ5時で放送

漸長緯度航路と大圏航路

安達 直安達 直

櫓櫂舟から巨大船までを操ることに恵まれた海技者として、また、その海技力を礎にした船舶管理者として、海運が急成長した時代を生きて心に残った経験や持論を纏めておきたい。

漸長緯度(MERCATOR:メルカトル)航路

沿岸での漁業や交易の航海から更なる富や新天地への人間の欲求は膨らみ、当然の成り行きとして水平線の彼方に興味と憧れを抱いて冒険航海が始まった。水平線の彼方へ針路を向けて海と空だけを眺めて延々と航行し、再び陸を視認するまでの大洋航海術を確立した。大洋航路開拓の最後にはインド洋と太平洋の2大海洋の航破が残った。1492年コロンブスがアメリカへ到達し、1498年バスコ・ダ・ガマがインド航路を発見して、愈々1519-1522年マゼランの世界一周航海で一応の完成となった。こうして地球の海路が開拓されると、16世紀初頭からの4半世紀にスペインとポルトガルの新天地獲得競争が繰広げられ世界地理が大体明らかになった。その表記方法が工夫され、1569年にはオランダ人のメルカトルが緯度と経度を記入した「メルカトル図」を作成した。この「メルカトル図法(漸長緯度図法)」では経度線は緯度に関係なく平行に表示されている。因って高緯度になる程に東西方向に拡大されるので、それと同じ割合で南北方向の緯度間隔を漸次増長している(漸長緯度の意味)。また経度線が平行である為、図上で2地点間を直線で結べば常に方位(針路)が一定な「漸長緯度航路」になり、相対方位の把握に便利なので海図や地図に多用されている。

大圏航路

地球上で物体の位置を表すには地球表面に設定した経度線と緯度線の座標を用いると便利だ。全ての経度線(子午線)は南北両極を結ぶ「大圏」であり、英国のグリニッジ天文台を通る子午線を経度0度、その真裏反対側を経度180度線(日付変更線)としている。つまり経度0度線から東と西へ等間隔で180本の東経線と西経線が配され、経度線の間隔は緯度が高くなるに連れ狭まり両極点に収束する。他方の緯度線は地球の南北軸に対して直角に輪切りした断面の円周線である。その中心部の円周線が緯度0度、即ち赤道であり、南北半球の北緯・南緯90度地点を両半球の極点としている。緯度線は赤道だけが「大圏」であり、それ以外は高緯度になる程に小さくなる同心円で、緯度90度の両極では点に収まる。「大圏」は球体の最大円周であり、地球上の2点間を結ぶ最短航路は「大圏」の部分円弧である。同じ経度線上、又は赤道上に在る2地点の「大圏」は、其々、漸長図上でも南北方向(0度または180度)と東西方向(090度または270度)の直線となる。しかし、これら以外の「大圏」では、経度線に対する方位角は常に変化するため「大圏航路」をメルカトル図上に描けば、その航路が設定された南北いずれかの半球の極点側へ張り出す曲線となる。2地点が高緯度に在って、且つ経度差が大きくなる程、漸長よりも大圏の距離が短くなるので、大洋横断時には現船位から目的地への大圏航路を基準コース:Proper Courseとする。

参考:東京 35N,140E からの概略の大圏と漸長の距離(マイル=1852m)と針路(度)
概位置 大圏距離 始針路
終針路
漸長距離 針路 距離差
シアトル
47N,122W
4201′ <045>
<120>
4492′ <081> 291′
サンフランシスコ
38N,122W
4484′ <054>
<123>
4750′ <088> 266′
ロサンゼルス
34N,118W
4779′ <056>
<126>
5067′ <091> <288>
カリフォルニア半島南
20N,107W
5760′ <060>
<131>
6086′ <099> 326′
ホノルル
21N,158W
3338′ <087>
<119>
3395′ <104> 57′

最長の大洋航路は、極東から南北太平洋を斜め横断して南アメリカ南端に達する航路である。気象さえ許せば、地球のど真ん中をほぼ陸地に妨げられず大圏距離で航海できる。東京とサンフランシスコ間の大圏航路は、一般に親しまれている地図帳や常用海図(いずれもメルカトル図法)の上で見ると、両地点を結ぶ直線(弦):漸長航路と異なる北側へ膨れた曲線(弧)で示される。

漸長緯度航路と大圏航路

実際に大圏の方が500km程も短い最短距離となり、極東方面から北米西岸の主要港へ向かうには大圏航路を採るのが基本となる。海図では北を上側に描くので、北半球の大圏航路をメルカトル図上で見ると、出発地から「上り」の航程が中間付近の「大圏の頂点」まで続いた後「下り」となって目的地に至る。恰も「山越え」のようだ。南半球では「上り」と「下り」が逆になって「谷越え」の航程図となる。航空機ならば地上の障害物に関係なく大圏航路を採用できるが、船舶では浅瀬や陸地を避けねばならず一貫して大圏航路を採れない場合がある。丁度、日本列島は、殆どの極東主要港から北米西岸各港へ往来する大圏航路上に横たわっている。ここを航行する船舶は、南/東シナ海〜南西諸島〜本州南沿岸へ最短の航路を採り、黒潮も利用して大略針路060度で犬吠埼付近へと達する。其処でやっと北方へ曲がる本州から離れて針路045~050度へ向け太平洋横断の大圏航行を開始できる。このように日本列島の太平洋沿岸は、北太平洋を横断する大圏航路の発着地点となっている。幸いに、北太平洋を囲む大陸には氷山を流出するような氷河が無いので安心して大圏航路を北上できるが、北大西洋や南氷洋ではそうはいかずタイタニック号の悲劇を教訓としている。

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