物悲しくもあり、頼もしくもあり、そして風情がある汽笛

「ぼー、ぼー、ぼー」、周囲に響き渡り、乾いた心に染み渡る情緒豊かな『汽笛』の話です。

皆さんは「長音五回 (― ― ― ― ―) 」と聞いてピンとくるでしょうか?一般的に火災その他非常時には「短7長1 (・・・・・・・―) 」のGeneral Alarmを吹鳴します。しかし、特定港(Specified Port)で停泊中に火災が発生した場合には長5回の汽笛又はサイレンを鳴らして周囲に知らせる義務があります。これは港則法に定められています。

特定港内にある船舶であつて汽笛又はサイレンを備えるものは、当該船舶に火災が発生したときは、航行している場合を除き、火災を示す警報として汽笛又はサイレンをもつて長音(海上衝突予防法第三十二条第三項の長音をいう。)を五回吹き鳴らさなければならない。

港則法第二十九条 (火災警報)

しかし、実際問題、警報が鳴り始めたら、長音の回数、短音の回数を正確に数えられるかどうか疑問であり、また、実際に数える余裕もなく、何回鳴ったかわからないことが多いでしょう。とにかく、サイレン、汽笛が連続して吹鳴されれば、咄嗟に非常事態であると判断して、冷静かつ迅速に行動することです。そして直ちに警報の理由・原因を調べて、現場状況の把握に努めましょう。

汽笛と言えば、やはり客船や練習船で出港の際に見送りに来てくれた人達へお別れの挨拶として汽笛を鳴らすときは、物悲しくもあり、頼もしくもあり、非常に風情を感じさせられます。一般商船ではこのような風情ある汽笛の使い方をする機会がありませんが、例えばドックでの作業が全て終了して、試運転終了後にドック関係者やSIが下船するときに、「お世話になりました。きれいにして頂いた本船はこれから航海に旅立ちます。」という意味を込めて汽笛を鳴らすことがあります。これなど粋な汽笛の使い方です。

以前、ある雑誌に汽笛製造会社のおもしろい話が掲載されていました。その汽笛製造会社は世界のトップシェアメーカーである「伊吹工業」です。担当者曰く、汽笛の音は「腹に響く音」が良いそうです。逆に汽笛として良くない音は、「パーンと抜けたような腹に響かない音」だそうです。確かにサックスで汽笛に近い低音を吹いても、実際の汽笛の音とはどこか違います。その決定的な違いは、汽笛の方はわざと汚い音を出すように設計されているからなのです。楽器ではきれいな音に聞こえるように設計されていますが、汽笛は意図的に不純音を混ぜる工夫をしているのです。きれいな音では、気象海象の影響によって聞こえない場合があり、複数の周波数を組み合わせた音が汽笛には必要なのです。なお、製造会社の従業員ならば自社の汽笛が聞き分けられるほど、各社で汽笛の音に特徴があるそうです。

では皆さんはDead Man Alarm Systemという装置を知っていますか。怪物が出てくる映画の題名のようですが、最近は多くの船でこの装置を装備しています。一人で作業しているときにその人が怪我・病気で倒れていないかどうかを確認するための装置です。機関室や船橋で単独で作業していて万一怪我や病気で倒れた場合、誰も気づきません。発見されたときは既に手遅れという可能性もあります。そこで、この装置を用いて一人でいるときでも当人が健全であることを確認するのです。船橋や機関室の各所にスイッチがあり、そのスイッチをある一定間隔以内に押さなければ、船橋や船長室の警報が鳴ります。そして、警報が鳴った場合は作業者がボタンを押せない状態、つまり、倒れていると判断できるわけです。

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