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F I R E が消火活動のイロハ

もし船内で火災が発生しても、消防車は来てくれません。誰にも頼らず自分達で消火しなければいけません。そこで、『基本的な消火作業』の話です。

船内での火災発生時の消火活動が成功に終わるか、失敗に終わるかの分かれ道の一つが初期消火活動の良し悪しです。火は3次元空間で燃えているので、おそらく火の勢いは時間に比例ではなく時間の二乗、三乗の速さで拡散して行くはずです。ですから1秒でも早期発見、1秒でも早期消火が必要なのです。時間が倍も遅れると、火の勢いは4 倍にも8倍にも広がっていくことでしょう。有名な話ですが、火災活動の「イロハ」を「FIRE」という英語の頭文字を使って以下の通り表現します。

F: Find (とにかく早期発見しましょう。)
I: Inform (単独では限界があります。関係者に連絡しましょう。)
R: Restrict (火炎が拡大しないよう、忘れずに通風遮断しましょう。)
E: Extinguish (最も有効な手段を使って消火しましょう。)

機関室火災の話を一つ。機関室火災が発生した場合、消火活動で最も重要なことは迅速に初期消火して延焼の拡大を最小限に防ぐことです。初期消火が消火活動の成否の分かれ道です。初期消火に失敗して火災が広がり、ポータブル消火器や消火ホースによる消火が無理と判断した場合、即座にCO2消火を決断し、実行することが必要です。CO2消火を実施する場合に船長として最も神経を使い、慎重とならざるを得ないことは、機関室に人が残っていないことの確認です。ほんとうに機関室から全員が退避したかどうか常に不安です。

火災発生時には異常な緊張状態となり冷静さが失われ、乗組員の統制が乱れてしまうことは容易に想像できます。船長としてはほんとうに人員点呼が正確に行われたかどうか確証を得る必要があります。実際に過去に起こった事故ですが、ある船で機関室火災が発生して、CO2を機関室に投入して火災の消火は成功しました。しかし、機関室に乗組員が残っており、不幸にも死亡するという痛ましい事故が発生しています。

こういった事故が二度と発生しないよう、日頃から防火操練で実際のCO2消火を想定した訓練を真剣に実施しなければならないことは言うまでもありません。ちなみに、昔は多くの船で機関室の固定式消火装置にはCO2ではなく、ハロンガスを使用していました。しかし、ハロンガスはオゾン層を破壊するので、現在は使用禁止となりました。そして、最近はCO2タイプではなく、乗組員に安全なFoamタイプの消火設備を機関室に装備する船もあります。Foamを使用すると逃げ遅れて酸欠による死亡事故を防ぐ可能性が高いです。

防火設備としてカーテンも重要です。夜の明かりが漏れないように船の居住区のカーテンは分厚い光を通しにくい素材でできていますが、船のカーテンにはもう一つ重要な要件があります。それは防火仕様です。詳しい規則の内容は知りませんが、ホテルのカーテンと同じです。居室で火災が発生するとすぐにカーテンに火が燃え移りますが、そのカーテンが耐熱性の素材でできていれば防火、あるいは火災を最小限に食い止めるためには非常に有効です。防火仕様のカーテンは当然価格も非常に高く、船橋のカーテンが古くなって交換するとなると軽く百万円を超えるはずです。

火災といえば、洗濯機室にある乾燥機も要注意です。内部のフィルターがすぐに綿埃で詰まってしまいます。その詰まりが原因で火災発生の恐れさえあるのです。いや、実際に火災が発生した船があるのです。

最近は乾燥室がない洗濯室では、乾燥機を多くの人が利用します。ですから、利用する人はこまめにフィルターのゴミを取らなければいけません。それも安全対策・防火対策の一つです。細かくて面倒なことの積み重ねが安全につながります。しかし、実際にフィルター掃除を習慣づけることは簡単ではなく、ついつい人任せになって、掃除をさぼってしまいます。それを防ぐには担当者を決めて週例作業・ルーティーン作業にすることです。そうすれば、引継さえ上手く行われれば、フィルターの詰まりもなくなり、火災の危険を排除できます。

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