船体や貨物に損害が発生すると莫大な費用がかかることもあります。その損失対策として船舶や貨物にかけている保険の話です。
船関係の保険と言えば、船員の雇用保険以外にも、船では数種類の保険に加入しています。船体保険(Hull & Machinery)、戦争保険(War Risks)、P&I保険は「基幹保険3種目」と言われるぐらい船の運航には欠かすことのできない保険なので名前ぐらいは覚えておいて下さい。その他にも不稼動損失保険があります。これらの証書は船長室に保管しており、毎年契約更新をしています。
P&Iとは「Protection & Indemnity」の頭文字を取った略称で、日本では「日本船主責任相互保険組合(Japan P&I)」が保険を引き受けています。Japan P&Iは船舶所有者や運航者で構成されたクラブです。いずれにせよ、船舶では一旦、海難事故等のトラブルがあれば、莫大な損害が発生します。このリスクを回避するために保険が必要です。
各保険の内容は、簡単に言うと以下の通りです。
- 船体保険:船舶自体に生じた物損を補填する保険
- 戦争保険:戦争危険により生じた物損を補填する保険
- P&I保険:船舶所有者、運航者に課せられる賠償責任を補填する保険
- 不稼動損失保険:海難事故等による使用利益の損失を補填する保険
船体保険でカバーできない損失を補填するための保険がPI保険です。岸壁接触事故、荒天による船体損傷事故その他PI保険が適用される場合にはPI保険の担当者(サーベイヤー)に現場確認を依頼します。昔は免責額が低かったため、「浮流物接触」「岸壁接触」等の海難報告を海運局(現運輸局)に申請して受理してもらい、ドックでのペイント費用を保険適用でカバーするということをしていました。ですから、ドック後から次のドックまでに何件もの海難報告書を作成して、公用航海日誌にも同じ記事を書きました。しかし、今は免責額が上がったため、海難報告書を作成しても意味がなくなり、航海士にとって面倒な事務作業はなくなりました。
これまでに「海難」、「重大海難」という言葉が幾度となく出てきましたが、言葉の定義からすると「重大海難」とは「海難」の中でも非常にインパクトがある大事故のことです。「重大海難」は海運会社に多大な損失をもたらすだけではなく、社会や環境にも悪影響を及ぼす重大な事故です。皆さんが習った海難審判法で定義されている「重大な海難」とは、旅客船ならば死亡・行方不明者が発生した事故又は2名以上の重傷者が発生した事故、一般商船ならば5名以上の死亡・行方不明者が発生した事故、そして爆発・火災により船舶が運航不能となる事故、大量の油を流出させた事故等々です。