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明日はわが身、いつ救助する側、される側になるかわからない

私達船員の命にかかわる『遭難船救助』の話です。

最近は昔に比べて航行中に遭難船や遭難者と遭遇する機会が増えているような気がします。理由の一つはGPSの普及により、どの船もほとんど同じコースを航行するようになったことです。昔のように天測頼みで位置決定する時代は海潮流の影響を受けて各船が航行する実際の航路にかなりのばらつきがありました。

しかし、現在ではGPSのおかげでどの船も最短航路を航行することが可能となりました。大洋であっても各船の航路はかなり収斂されており、昔に比べて非常に多くの船と遭遇します。そのため、船によっては多数の航行船に出会うのを嫌って、わざと常用航路(最短航路)から外れたコースを航行することさえあります。

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遭難船・遭難者に遭遇する頻度が増えているもう一つの理由は情報通信網の発達です。遭難情報が正確、且つ迅速に関係機関へ通報され、即座に付近の航行船舶へ周知されます。他人事ではありません。自船の航行海域付近で海難が発生し、関係機関より突然、救助要請が来るかも知れません。私達船員はいつでも救助活動ができるよう心構えや準備が必要です。救助活動を想定の範囲内にしておくことは外航船員の務めです。

もし視認できるほど直近に遭難船や遭難者を発見した場合には、皆さんはどう対応しますか?遭難船・遭難者を発見した本船に救助義務が発生することは常識的に誰もが知るところです。救助という限りは、遭難船を発見したことを関係先に通報するだけでは救助したことにはなりません。本船が取り得る行動をすべて行わなければならないのです。一方、私達が乗り組む大型商船は、その操縦性や周囲の航行環境に著しく制約されて、容易に遭難船や遭難者を救助できるとは限りません。しかし、少なくとも以下のような手順を取らなければ、救助義務を果たしたとは言えません。

救助手順 (至近距離での遭難者発見の場合)
  1. 本船至近であれば、ブイや自己点火灯投下
  2. 現場位置記録
  3. 機関をS/B (可能であれば減速)
  4. 救助部署発令
  5. 最寄りのRCC及び会社へ遭難船(者)発見を連絡。
  6. 本船で救助できるかどうかの判断

至近距離での遭難者発見の場合は上記の最低限の対応を行いますが、そこから実際の救助活動ができる場合と、何らかの理由により救助活動ができない場合とで本船の取る行動が大きく分かれます。救助活動ができる場合には、2次災害を起こさないようにあらゆるリスクを想定し、安全かつ慎重に救助活動に従事します。救助活動中に2次災害を起こすという事故も実際に起きているので、細心の注意が必要です。

一方、何らかの理由で救助活動ができない場合が問題です。関係機関や付近の船舶に連絡したからといって無闇に現場から立ち去ってはいけません。関係機関や他船が救助に赴いていることを確認し、本船が現場を離脱してよいという状況になるまで現場至近に待機しなければいけません。自船の安全を確保しながら現場に踏みとどまる必要があるのです。陸上であれば警察や消防署等の関係先への連絡で済むことも洋上では救助活動までが義務になります。洋上という環境においては、シーマンシップや互助精神が必要不可欠です。明日はわが身、いつ救助する側、あるいは救助される側になるかも知れないので、心づもりと覚悟が必要です。


参考
海上における遭難及び安全の世界的制度(GMDSS)総務省 東海総合通信局

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