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日本のハーバータグボートの能力

安達 直安達 直

先日、タグボートについて書いた記事に読者の方からコメントを頂いた。そのコメントへの返信として、日本の港湾で活躍するタグボートの情報を本記事でもう少し詳しくまとめる。

読者から寄せられたコメント

先日、タグボートについて書いた記事に対して、読者の方から以下のコメントを頂いた。感謝申し上げるととともに、頂いたご要望に、本記事でお答えしたいと思う。参考にして頂ければ幸いである。

港内でタグを利用する船舶は、その大きさからタグ使用は水先人任せになることが多いようです。港内でも波高が大きく(1.5m以上)なればタグの能力は十分発揮できなくなり、本船の操船に必要な推力が得られなくなることがあります。水先人だけでなく、操船に携わる者は、タグの能力限界を把握しておく必要があるものの、文献が少ないのが現状です。港湾により、配備されているタグは様々ですが、波浪や速力に起因するタグの使用限界について、船学で紹介いただければと思います。

日本のハーバータグボートの概要

日本のハーバータグボートのおおよそのサイズは、全長×全幅×深さ ≒ 35×10×5(m)、喫水4m、排水量500トン、総トン数:200トン超である。主な業務は、進路警戒(エスコート)、着離岸(ハーバー)、救難等で、最大速力は約15kts程度 (約400排水トン, 4,000馬力)、また、浅所作業に対応して喫水4m以下、高旋回性を実現するためにASD (Azimuth Stern Drive) 型というのが普遍となっている。推進機構は、主機関回転軸は水平後方へ延び、垂直回転軸と連結され、船底を貫通し、再度、水平方向の推進器軸を回転させる。動力伝達経路がZ字なのでZ-Drive Propeller (ZDP) 型と称する。船橋やマスト上に固定式消火装置を装備しており、船舶火災等での化学消火も可能である。

タグは、港湾法で港湾施設の一部とされ岸壁施設と同様に港湾局の政策下にある。重要な港湾インフラであるタグには、運用の基盤となる定係地が必要であり、飲料水、電気、廃棄物処理、等の設備も完備が望ましい。

本船作業に必要な曳引力・押力

曳引力 (BOLLARD PULL:BP) は100馬力あたり、1.5トンである。港湾の狭い水域に於いて船舶を支援するには、競走力でなく格闘力が求められ、入出港やエスコートでは、本船が操縦不能、或いは運転不自由等となる不測の事態も発生するので、タグの支援は極めて頼りになる。

その牽引力を伝える曳索は、長さ150m、径70mmの化学繊維ダイニーマ製で破断力150トンに耐える逸物が備えられている。

必要曳引力・押力馬力数は、本船の載貨重量トンの10%を馬力数として算出する。例えば、本船の載貨重量トンが30万トンの場合、その10%の3万を必要馬力数とし、4,500馬力型のタグを使用する際には4,500馬力型x7隻 (= 31,500馬力) となり、7隻必要となる。

本船作業に有効な状況

タグの作業では、本船速力5kts以下、曳引力が有効な曳索長は90m以上、曳索仰角:20度以下が有効である。作業中の海象状況は、波長にも因るが、縦揺れによる推進力低下と曳索仰角変動での破断を懸念し、波浪状態:1m以下が良い。(但し、排気筒がトランサムの水線上60cmに導かれているタグは、後進での曳引時に海水の打ち込みに要注意!)

また、外洋ではハーバータグでは不能であり、航洋(オーシャン)タグの起用が必須となる。《例》30万t満載VLCCを12,000馬力、曳索1,000m以上、 2-3m波高、曳航速力4kts程度。


参考
川崎近海子会社OOC/台風からVLCC救助。AHTS「あかつき」、曳航1カ月間。防災面でも実力日本海事新聞



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