2大海難、「衝突」と「座礁」

海難事例の筆頭は衝突、次が座礁であり、動く物体の宿命と言える。衝突は船舶同士の場合が多く彼我の過失が追及されるが、座礁の殆どは自船の故障や誤操船による単独の事故であり自らの責任に帰する。時代と共に航法計器が発達し航海支援情報の利用も高度化したが、残念ながらここ数年を観てもこれらの事故は減っていない。

例えば、レーダの普及で霧等の視界制限時でも相手船や障害物が探知可能になり、交通の輻輳海域でも遠慮無く高速航行している。飽くなき欲望を持つ人間は、行動が安全で便利になれば更に活動を広げるのでリスクは軽減されず増加しかねない。既存の危険性を緩和する手段が開発されるや、それを逆手に生産性を拡大しようとする”イタチごっこ”が続いている。海難事故の発生には、こうした生産性の追及と船舶の本質的性質が背後要因となっている。大地に在っては動くはずのない超重量巨大物である船舶は、水に浮いて相当な速力で航走できる。その慣性力の制御は至難であり、積極的に制動するブレーキも備えていない。しかし、その大きさ故にその挙動は緩慢で落ち着いて観えるので却って不気味であり、ドカンと一瞬の激突と跳ね返りでは済まない。

岸壁等の大地に根付いた強靭な物体への大型船舶の衝突は、莫大な運動エネルギーが放散するまで数秒間に亘って船体が壊滅・潰滅するので実際よりも長く感じられるようだ。以下の通り、体積の倍率は3次元各寸法の倍率の積となるので物体の巨大化は恐ろしい。

全長300m、幅30m、深さ30m、板厚30mmの巨大船は、

  • 1/100に縮小した模型では、全長3m、幅0.3m、深さ0.3m、板厚0.3mmとなる。
  • 体積では300x30x30=270,000m3が、(1/100)3=1/100万に縮小し0.27m3になる。

この様に、全長300mの巨大船では、船殻鋼板が約30mm厚であっても内側に多数の骨鋼材を当てて船体強度の法定基準を満たしている。それを1/100に縮小した船舶となれば、外板は0.3mm厚となり、丁度、障子紙を桟で支える紙細工の如くとなってしまい現実の船舶としては有り得ない。実際には、全長3mの鋼船であれば外板は1.0mm厚以上が必要とされる。逆に、その各寸法を100倍した全長300mの船舶の外板は100mm厚となって実用不適は言うまでも無い。因みに、戦艦「大和」の中央部外板は魚雷防御のため410mm厚にされたが、そんな鋼鉄重量は載貨重量に置き換えなければ商船たり得ない。

座礁せずに安全に航行するには、船底と海底との間隙「Under Keel Clearance:UKC」基準を厳守して、外洋では喫水の20%以上、港外水路は同15%以上、港内水路は同10%以上の水深海域を航行すべきだ。マラッカ・シンガポール海峡では、喫水15m以上の船舶と15万載貨重量トン以上のタンカーについては、UKC:3.5m以上の確保が規定されている。例えば、VLCCタンカー:全長300m、喫水20mが速力12ktsで水深24m、水深/喫水=1.2の海域を航行するには、「船首沈下量」の約110cmを加味して、計算上のUKC=24-20-1.1=2.9mとなる。そこで、9ktsに減速して同沈下量を60cm以下にすれば、UKC=24-20-0.6=3.4mと余裕が増す。また、この最低限のUKC状態では、浅水影響に因り旋回径が深海に比べ約1.5倍に拡大するなど操縦性能が著しく低下する。

浅水域では極力減速し船首沈下量を抑えて航行し、水深不確実な海域は避けるのが鉄則である。座礁や入渠の状態では海水の浮力が失われて船体重量が海底や盤木に掛かるので、適切に分散或いは軽減しなければ船底の破壊に繋がる。小型船は砂浜に転がされても大丈夫な船体強度を有するが、巨大化に連れて脆弱になり浮力無くしては自重でも壊滅してしまう。

この禁断の座礁も、唯一、自発的に完全に実行すべき場合がある。船舶が廃棄され解体場所となる砂浜の奥深くに到達できるように、排水量を極力軽くして満潮時を選んで全速力で直角に突っ込む。こんな経験は無いが、なんとも複雑な気分になるだろう。

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