ウィンチのブレーキの仕組みは、濡れタオルと同じ

『係船機のブレーキ』の話です。

係船機がどのようにブレーキ力を働かせているのか、その作動原理を簡単に説明できるでしょうか? ブレーキバンドの一方が固定されており、他方を締め付けることによりブレーキドラムにブレーキライニングが強く押し付けられて、その摩擦抵抗がブレーキ力となると言われて理解できますか?

私が若い頃、まだブレーキの構造もブレーキが働く仕組みも知らなかった時の話です。ある先輩機関士にブレーキの仕組みを説明してもらったことを思い出します。その人が「ゆっくり回転している竹竿に濡れタオルをぐるぐるっと引っ掛けるだろ。その濡れタオルを離さずに持っていると棒の回転が止まるだろ。それが Winch のブレーキの仕組みだよ。」と言われました。皆さんもイメージできたでしょうか?これがイメージできれば Winch のブレーキ機構を理解していることになります。竹竿が回転ドラム (ブレーキディスク) であり、濡れタオルがブレーキライニングに相当します。

濡れタオルが竹竿の表面にへばりついて抵抗となり、その回転を止めようとする力が働きます。Winch のブレーキライニングも同じようにドラム面に強く当たり、巻きついて大きな抵抗となり回転を止める力を作ります。昔のブレーキライニングはアスベスト (石綿) が多く含まれていましたが、最近はアスベスト問題でノンアスベストのライニングとなり少しブレーキの効きが悪くなっているかも知れません。

機関士がよく言うことですが、「フランジパッキンやグランドパッキンは昔のアスベスト製のものは漏れにくかったが、今のノンアスベスト製のパッキンはすぐ漏れる。」とのこと。昔の船ではアスベストの用途はパッキンだけでなく、蒸気管のラギング (Lagging) や居住区の断熱材等たくさんの場所で使用されていました。アスベストは有害ですが、船では非常に役立っていたのです。

ところで、スプリットドラム (Split Drum) を装備している係船機があります。ドラムが「Storage Drum」と「Tension Drum」の2つのドラムに分離しているタイプの係船機です。このスプリットドラムの長所は何でしょうか? スプリットドラムがない場合は、ドラムへの巻層数によってブレーキ力が変化します。

つまり、1層巻きより2層巻きの方がブレーキ力は低下します。巻き数が多くなるとドラム中心からのレバーが長くなり、そのトルクが大きくなるので、同じ力で係留索が引っ張られた場合でもドラムへかかる荷重が大きくなり、ブレーキが滑ることもあります。巻き数が多くなると引っ張られる力が大きくなるのです。一般的に1層巻きから2層巻きになると1割程度ブレーキ力が弱くなります。

ですから、過大な力が発生しないように常に一定の張力が働くように Tension Drum に1層だけ巻き取り、そこへ係留索の引っ張り力をかけるようにしているのです。もう一つスプリットドラムの長所は、テンションドラムに1層しか巻かれていないので、いくら強く巻いてもワイヤーがかみこみません。テンションドラムがないウィンチの場合、ドラムにたくさん巻かれている状態で強く巻き締めるので、ときどきワイヤーがかみこむことがあります。スプリットドラムではそんな心配は一切無用です。

ただし、スプリットドラムにも欠点があります。Storage Drum から Tension Drum へラインを移し変える作業に時間がかかります。またTension Drumへ巻くラインが長すぎたり、短すぎたりして、取り直すこともあります。頻繁に入港する港では Tension Drum へ移し替える場所に目印を付けているので係船索を確実にTension Drum へ移し替えることができますが、初入港等の場合はしばしば取り直すことになります。Drum 1巻き分の長さが約2mなので、5巻きは長さ10mに相当します。従って移し替えるタイミングの目安は係船索が10m程度たるんだ状態で Tension Drum へ移し替えればよいことになります。熟練した航海士はこの Tension Drum への切り替えのタイミングを目視で覚えていて切り替えタイミングのミスが少ないはずです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA