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CCRは緊張感で一杯ですが、少しは笑顔がほしいものです

一般的に言えることですが、重要な局面で緊張し過ぎると良い結果が得られません。そんな『過度の緊張感がもたらす悪影響』の話です。

LNG船の荷役作業で行うCTM (Custody Transfer Measurement) という検量作業を実施するときは緊張します。そりゃそうでしょう、陸上側荷役担当者をはじめSI、Surveyorその他ターミナル関係者諸々たくさんの人が手順に間違いないか、検量は正常に行われるかと張り詰めた雰囲気の中で担当航海士の所作を注視しています。あの雰囲気の中では緊張しないほうがおかしいでしょう。ですから、普段なら何気なくできる作業も余計な緊張によって、イージーミスを犯し易くなります。何をかくそう、私もCTMでは度々失敗しております。イージーミスを極力少なくすためには余計な緊張をさせない、しないことです。

私が失敗した経験としては、CTMプリンターの連続用紙の位置を調整せずに、CTMを実行し、打ち出しDataが2枚に渡って打ち出されたことがあります。打ち出しDataを1枚のA3用紙にコピーし直したので、別段問題にはなりませんでした。たかが紙一枚打ち出すだけで、あの緊張感はいったい何なのでしょうか?失敗してはいけないという強い思いが失敗を招きます。

このトラブルはCTM実施前に紙が適切な位置にあるかどうか確認すれば良いだけの話です。それがあの独特の緊張感のなかでは、普段なら何の造作もない作業もいつも通りできなくなるのです。CTMでちょっとでも失敗すれば、とてつもなく大変な事態を巻き起こしたように騒ぎ立てるのはやはりおかしいと思います。このあたりにも「日本の常識は世界の非常識」が潜んでいそうです。

とある外地の積地ではターミナル関係者やサーベーヤーがだれも立ち会わないまま、陸側の許可を得て船側が勝手にCTMを実施する港もあります。ここで言いたいのは、何もCTMを勝手気ままにやれば良いと言っているのではなく、妙な緊張感がないリラックスした雰囲気を作り、作業を進めることが重要であると言いたいのです。実際には難しいでしょうが、関係者の中に少しぐらい笑顔があるぐらいの余裕が欲しいものです。

CTM装置もかつては、FOXBORO社製の静電容量式システムの独断場でした。しかし、レーダー波を使用したシステムが主流となりつつあります。そのシステムの一つにSAABというメーカーの 「Tank Radar System」があります。このシステムの利点は、信頼性が高く(私はSAABのシステムを搭載する船3隻に乗船しましたが、私の知る限りではFOXBOROより遥かに故障が少ないシステムでした。)、また、タンク内にレベルセンサー部がなく、Radar発信器が故障した場合も、タンクドーム上にある発信器を予備のものに取り替えるだけで済みます。ガスフリー作業等大掛かりな作業は一切不要です。

少し専門的な話になりますが、SAAB社製のCTM装置ではV-Pin Test(Verification Pin Test)という重要なテストがあります。これは針金のようなPinをタンク上部から一定の距離に設置してあり、CCRでメニューの中から「V-Pin Test」を選択すると、その距離を計測することができます。モニターには「実測値」と「温度補正されたPinまでの距離」(あらかじめ判っている距離)が表示されます。その差がこの装置の誤差で、ゼロだと結果良好です。その差が5mm以内であれば許容範囲誤差ですが、それ以上になるとメーカーによる調整が必要となります。V-Pin Testを実施し、誤差が5mm以内であることを確認することで、船陸関係者がこのSAAB CTM装置の健全性を認めることになります。LNG船に乗る皆さんはV-Pin Testという名前ぐらいは覚えておいて下さい。

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