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隙間は大き過ぎず、小さ過ぎず 2ミリぐらいが丁度良い

『係船機のブレーキ』の話です。

WindlassやWinchにはBrakeを緩めたときにBrake Bandが下がりすぎないよう支えるSupporting Bolt(下写真)が付いています。私の経験ではこのボルトのClearance調整が適切でない船が多く見られます。このボルトとBrake Bandの間隔は大き過ぎても、小さ過ぎてもいけません。メーカー推奨に多少の差はありますが、おおよそ1.5〜2.0mmです。

調整し忘れているのか、酷い場合には1cm近くClearanceがあり、Brake Band Supportの役割を果たしていない船もありました。自然と緩むことはないので、きっとBrake Lining交換等のメンテナンス作業の後、間隔を調整し直すのを忘れているのです。まさか、適切なClearanceが1cmであると思っている人はいないはずです。ブレーキバンドは1〜2 mm程度緩めばそれでOKです。

1cmも隙間があり、ブレーキバンドをガクガクになるほど緩めると片当たりとなって、ブレーキバンドが偏磨耗してしまいます。乗船して甲板上を見回る機会があると、いつもSupporting Boltに目が行き、この船のClearanceは大丈夫かなとチェックする習慣が身につきました。過去の経験から自然とチェックポイントをつかみ、確認できるようになるということは、新人から脱皮した証かも知れません。

LNG船の係船機のBrake Drumの表面は鉄製でなく、Stainless製です。過去に乗船したタンカーでBrake Drumが鉄製のため、錆びが酷くて係留中、頻繁にBrakeが滑って係船索が緩んでしまい大問題となったことがあります。そのため出港後に全係船機のBrake Bandを外し、Brake Drum表面の錆び打ち、Lining交換を実施したことがあります。

20台近い係船機のBrake Bandの開放整備作業は大変な労力を要しました。その点Stainless製のBrake Drumでは錆によるすべり(Slip)がほとんど発生せず、Liningの磨耗も非常に少なく、適切な係留力を長期間維持できます。Stainlessなので初期コストは高くなるでしょうが、その後のMaintenanceに要する労力と係船時の安全性を考慮すれば、どの船もStainless製Brake Drumを採用すべきです。

WinchのBrakeが滑る原因として多いのが、Liningが磨耗して薄くなり、止めているビスの頭が見え始めることです。ビスの頭が飛び出すとLiningがBrake Drumに直接当たらず、Brake Drumと、このビスが擦れてブレーキ力が弱まるため滑りやすくなります。しかし、最近のStainless製Brake DrumではLiningの磨耗も少なく、かなりの長期間「止めビス」の頭が見え始めることはありません。

どの船でも機関部がBrake Liningの厚さ(Thickness)を定期的に計測しており、基準値以下になるとBrake Liningを交換します。また、ブレーキ力が弱まるもう一つの原因として、2つ割のBrake Band接合部の固着によりBrake Bandが片当たりとなり、ブレーキ力が弱まることもあります。従って接合部のグリースアップを確実に実施し、フリーの状態としておくことが肝要です。

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